ではトランプ自身が有罪になって刑務所に送られることはあるのか。

 その答えは、老舗の米雑誌ザ・ニューヨーカーでニュース編集者を務めるスーザン・グラッサーの最新記事のタイトル、“The Persistent Fantasy of a Trump Knockout Punch”が暗示的だ。

「トランプを一撃でノックアウトするのは見果てぬ夢」という意味で、前大統領を刑務所にぶち込みたいと多くの国民が思っているが、実現までの道のりはまだ不透明だというのだ。

 なにしろ在任中に納税申告書すら公開せず、大統領の免責特権を盾に背任、共謀、職権乱用、司法妨害、脱税、詐欺などさまざまな疑惑の追及と2度の弾劾裁判をまんまとすり抜けてきた悪賢い男である。

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 1月6日に起きた前代未聞のトランプ支持者による連邦議事堂襲撃事件を扇動しても、圧倒的多数の共和党議員はトランプに気兼ねして超党派の調査委員会の設立さえ反対しているから始末に悪い、とグラッサーは指摘している。

 しかし、前述したように検察側はすでにトランプの財務資料や関係者からの証言を入手している。メリック・ガーランド司法長官の許可が得られれば、年内にもトランプを刑事告発できるとヴァンス主席検事は自信を深めているという報道もある。

 もしそうなれば、決め手となるのは明確な犯罪の意図があったことを陪審に説得力をもって証明できるワイゼルバーグの証言だろう。最後までトランプに忠誠を尽くすのか、はたまた裏切って司法取引に応じるのか。これは見物だ。

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)