累計15万部を超えた法律入門書のベストセラー・シリーズ『元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術』の著者が最も身近なのに、もっともややこしい法律の問題にわかりやすく答えます。数ある法律の中でも、資格試験や仕事上の関係で勉強する人の数が多い「民法」が今回のテーマ。民法は、売買契約や親子関係といった身近なテーマを扱う法律なのに、実際の問題となると、どうしてこうもややこしくてわからなくなってしまうのでしょうか? 何かうまい方法はないのでしょうか? シリーズ待望の新刊『元法制局キャリアが教える 民法を読む技術・学ぶ技術』を書いた著者、元法制局キャリアの吉田利宏さんがその攻略法の一つを教えてくれます。

民法の条文は外国語のようなものと考えましょう

 民法の条文や教科書に書かれた説明の「翻訳」にチャレンジしてみましょう。翻訳というのは英語を日本語に変えるように別な言語に変換することです。法律の条文やテキストは初学者にとってはまさに外国語。そこでわかりやすく表現することを「翻訳」と表現してみました。さぁ、翻訳にチャレンジです。

原文
 意思能力を有しない者が行った法律行為は無効である

翻訳例
 どんな結果が発生するかわからない状態の人が「何々したい」なんて言っても、その人が行った契約などは最初から効力が発生しません。

具体例
 あるオークション会場で「はい、5万円でこの壺買う人いませんか?」とオークショニア(競売人)が尋ね、母親の膝の上に座っていた小さな子どもが「はい!」と手を挙げました。オークショニアは何事もなかったようにオークションを続けました。

オークションにて©草田みかん

「~~をください」にはどんな意味がある?
 意思能力というのは自分の行為の結果を判断する能力です。八百屋さんの店先ではいろんな野菜が売られています。そこで「シイタケをください!」と言えば、シイタケを買いたいということですよね。「ください」ということを店先で言えば「買う」ということであり、買った以上、代金を払う義務が生じます。

 意思に基づいて、法律効果を発生させようとする行為のことを法律行為といいますが、ここまでわかった上で「シイタケください!」というものなのです。口頭での契約ですが、これも立派な売買契約のひとつです。

民法には大切な3つの原則があります

所有権が認められるからこそ経済が成り立つ
 民法は3つの原則により支えられています。3つとは権利能力平等の原則、所有権絶対の原則、私的自治の原則です。

 個人の所有権を認めるという「所有権絶対の原則」があるので、シイタケは八百屋さんが所有しています。「シイタケは王様のお気に入りだから個人所有など認めない」なんて言い始めたら、シイタケの市場での流通はなくなります。所有権絶対なのだから、所有権を持っているシイタケを誰かに自由に売ることだってできるわけです。つまり、取引とか流通といったものが守られます。

自分で決めたからこそ責任も引き受ける
 また八百屋さんは誰にどんな形でシイタケを売ろうと構わないのです。「自分たちの権利や義務は自分たちが決める」これが「私的自治の原則」です。その内容の一部として契約自由の原則があります。ですから、八百屋の奥さんがイケメンにしかシイタケを売らないと決めても構わないのです(あくまでも法律上の話ですが……)。ただ、そうして自分で決めたことだから、契約の結果、生じる義務から逃れることはできません。

人は同じように権利義務の主体となる
 契約上では、「甲は」とか「乙は」とか書かれていますが、誰が甲になろうが、乙になろうがいいのです。誰もが同じように権利を得て、義務を負う存在となります。「偉い政治家はシイタケを買っても代金を払う義務がない」なんてことはありません。人は誰もが同じように権利義務の主体となります。これが権利能力平等の原則です。ところがこれを徹底してしまうと問題も生じます。契約自由の原則は、意思能力があってこそ成り立つわけです。どんなことが生じるかわからないまました行為の結果を負わされるのは酷というものです。ですから、3条の2では意思能力を有しないときの行為は無効としています。

 続きはまたお話ししますが、民法は意思能力が不十分と思われる人たちをグルーピングして保護することにしています。

 ちなみに無効というのは、はじめから効力を生じない状態をいいます。

 出てきた言葉、再確認しておきますね。

意思能力 自分の行為の結果を判断する能力
法律行為 契約のように、意思に基づいて法律効果を発生させようとする行為
無効 はじめから効力を生じないこと