中国介護施設中国の介護施設での食事風景 写真:筆者撮影

 日本の介護施設では、栄養やカロリーを計算した上で一人一人決まった分量が提供されていることがほとんどだが、中国の介護施設では、食事は「おかわり自由」。栄養以外に塩分、カロリー、水分などの管理はしないことがほとんどだ。栄養はもちろん重要なキーワードだが、「食べ慣れた味であること」「満腹になること」「旬の食材を使うこと」が重視されている。

 中国には昔から「民は食を以て天と為す」(中国語:民以食為天)ということわざがある。食事に対してのこだわりが人一倍に強い、国民性と言っていいほどだ。食事への執着は、年齢を重ねても変わることがない。このような意識が介護施設の食事にも強く反映されている。

 数年前にある調査機関が高齢者とその家族に対して、「介護施設を選ぶ際のポイント」に関する調査を行った。その結果、選択基準の順位で1位になったのは、「食事の質」だった。食事はその施設の評判を左右する最も重要な要素となる。

 そのため、高所得者向けの施設からリーズナブルな施設まで、一様に食事はおろそかにしない。一週間のメニューはまず重複しない上に、栄養のバランスや家庭料理の味などを吟味し献立を作る。特に季節の旬の食材をふんだんに使うことを心がけている。旬のものが体に一番良いという中国古来の「医食同源」の文化があるからだ。

食べる喜びは生きる喜び
食事持ち込みもOK

中国の介護施設中国の介護施設で提供された薬膳スープ 写真:筆者撮影

 筆者の知り合いが経営する上海にある中間層向けの施設では、冬になると毎朝、小さいつぼでコトコト煮込んだ薬膳スープを朝食として入居者の一人一人に出している。冬は滋養の季節で、エネルギーを体内に蓄積しないといけないという言い伝えがある。地域によって多少は異なるが、二十四節気でそれぞれその日に何を食べれば体に良いかという風習も残っている。

 筆者は中国各地の施設で入居者と同じ食事をしたが、肉や魚の揚げ物などの高カロリー、高タンパク質なものが多かった。筆者はいつも食べ切れなかったが、入居者はおいしそうにペロッと食べてしまうのだ。最近は、週に一度は昼食をバイキング形式にする施設も出てきている。

「食事がおいしくなければ、人生がつまらない」
「年を取ると、残る楽しみは食べることだけ」
「食べる喜びは生きる喜びだ!」

 中国は、このような考え方が高齢者の食事に反映されているのだ。