西村大臣の「失言撤回」騒動と
ワクチンハラスメントの共通点

 一見これとは違う話に見えますが、西村康稔コロナ対策大臣が緊急事態宣言に伴い「金融機関や酒販卸に協力してもらってでも飲食店での酒の提供を停止してもらいたい」という主旨の発言をして炎上・撤回に追いやられました。

 ただでさえ経営が行き詰まりかけている飲食店からみれば、このような政策は飲食店ハラスメントにほかなりません。そう考えたうえで、なぜこんなことが起きたかというと、根本には西村大臣が「この状況を責任者として何とかしなければいけない」とまじめに考えたからでもあります。

 何度対策を打ち出してもどんどん世の中が緩んで、どんどん効果が小さくなっていく。責任者としては新しい何かをしなければならない。そう考えて「まだやっていないことは?」と考えることで一線を越えてしまう。ワクチンハラスメントを引き起こしている人事担当者と同じで、まじめでなければこんな失敗は起こしません。

 一方で、西村大臣の同僚でもある自民党の穴見陽一議員が、西村大臣の必死の訴えかけに耳を貸さずに都内で3時間、5人で酒を伴う会食を行っていたことが話題になっています。

 自民党議員は定期的にルールを破る特徴があって、この2月にも松本純議員ら3人が緊急事態宣言下に銀座のクラブに通って離党したばかりです。ただ穴見議員の場合、事情は少し違うかもしれません。

 穴見議員は九州のファミレスチェーン『ジョイフル』の経営者で、文春の報道によれば同席したのもモスフード、ロイヤル、そしてかつやを運営するSRSのそれぞれ会長だったそうです。つまり飲食店の側が反旗を翻そうとしての行動ともとれる話であり、当事者たちは確信犯として政府の方針に逆らって密談していたと推察されます。

 さて、ワクチンハラスメントをする側とされる側、飲食店ハラスメントをする側とされる側、それぞれの事情がある中で、いったい何が善で何が悪なのでしょう。穴見議員のようにたとえ議員を辞めることになったとしても一生裕福に食べていける立場の人と、仕事を失ったとたんに生活に窮するワクチンハラスメントに悩む介護士を一緒にするなという意見もあるでしょう。

 ただこの問題、構造をよく考えないと、本当の敵ではない相手同士で悪口を言い合う不毛な論争になる危険性を内包した問題です。

 ここまでお話しした問題から少し距離を置いて、現在わたしたちを取り巻いているコロナ拡大の問題をモデル化することを通じて見直してみたいと思います。