業務内容があいまいな管理職に
若手社員からは厳しい視線

 今後、シニア人材を積極的に登用する企業が増えていけば、中高年層は業務の専門性を求められることになる。

「とくに“バブル入社”と呼ばれる50代は人数が多く、課長や部長などの管理職の肩書を持つ人も多いですが、業務内容はじつに曖昧です。本来、管理職は部下の育成をしたり、チーム全体の生産性を上げるマネジメントをすべきなのですが、そうした目的とかけ離れた業務を行っている肩書だけの管理職は珍しくありません」

 これまで多くの日本の企業が、管理職を専門職ではなく給与水準のひとつとして扱ってきた。その結果、業務内容が曖昧なまま管理職という肩書だけが定着したという。

「年功序列が一般的だった時代の管理職は、順当に昇格をした先にたどり着くポジションでした。そのため、営業や開発などの業務で成果を上げて昇格した人が管理職に就いているケースも多く、専門のマネジメントスキルは重視されていませんでした。現在50代の管理職の人たちも、そうした上司の背中を見てきたので、同じように振る舞っている可能性が高いです」

 しかし、年功序列の崩壊が叫ばれている中、管理職に対する若手の視線が厳しくなっている、と伊藤氏。

「企業の人事担当者に聞いた話では、20代、30代からの人事への不満の多くが『処遇に対する不公平感』だそうです。たしかに、部下から見て何を管理しているのかわからない、活躍できていない上司やベテラン社員が高い報酬をもらっている状況は、不公平感を抱きやすい。この状況に危機感を覚えた企業は、特に管理職に明確な職務の定義を定め、それに伴った専門的なマネジメントスキルを求める傾向を強めています。一方の、現役の管理職は『今さら専門的なスキルが必要と言われても困る』と感じている。職場ではさまざまなミスマッチが生まれています」

 職場が抱える課題を解決するために、社員に求めるスキルを企業側が明確に発信するようになったという。たとえば「部門長は部下の育成やモチベーションを管理するスキルが必要」など、仕事内容を定義してその成果を評価する「役割等級制度」を採用する企業が増えているそう。

「『役割等級制度』は、職務や職責に応じた目標に対する成果をシビアに評価する制度です。そうなると、管理職ならばマネジメントを理論的に学び、実践することが求められます。このように、自律的にスキルを学ばせ、成長を促す流れが強くなっていますね。今後は管理職に限らず、社員一人ひとりに“学び直し”の姿勢が必要になる可能性が高いです」

 通信大手のKDDIでは、昨年の夏から新たな人事制度を導入している。その制度とは働いた時間ではなく、個人の成果や挑戦、および能力を評価して処遇に反映するというもの。それに伴い、社員の職務領域を明確にして「KDDI版ジョブ型」を推進していくという。

「同社では、高い専門スキルを持つプロフェッショナルの育成を目標に掲げています。市場価値を重視して処遇を用意し、実力主義で成果に報いることで、自律的な成長やチャレンジを行う人材を育てることが狙いのようです。企業が社員の価値を高める方針を打ち出すと、社員や求職者もメリットを感じ、人材の確保につながります。労働人口が減るなかで、人材確保の重要性を理解している企業は動きも早いですね」