リーダーは「組織は、自分たちに都合の悪い事実は必ず隠す」と肝に銘じなければなりません。組織が伏せる情報を引き出すには、「何月何日までに日報の有無を報告せよ。もし『ない』と報告したのちに発覚したら、以下の処分を行う」など、具体的で明確に指示をすることが必要です。

 また僕は公職就任前の弁護士時代、保険会社の顧問弁護士を務め、保険金詐欺の疑い案件に関する調査を多く手掛けました。強制捜査の権限がないにもかかわらず、任意で証拠を集め、任意で関係者から話を聞いていく。詐欺であることの状況証拠を限りなく積み上げた上で、詐欺の疑いのある保険金請求者にそれをぶつけ、最後は請求を取り下げさせることの連続でした。

 よほどの状況証拠の積み上げがないと、相手も保険金の請求の取り下げなどしません。数百万円、場合によっては数千万円、数億円の請求を捨てるわけですから。

 相手が保険金詐欺を完全に認めることはまずありませんが、「もし保険金請求をすれば詐欺罪で刑事告訴され、有罪になる」という状況証拠を積み上げると、相手は自ずと保険金請求を取り下げます。

 このような事件を数百件もやってきたので、真相解明のコツは心得ていました。知事、市長になって組織の不祥事による危機が発生した際も、自ら陣頭指揮を執って組織を動かし、真相の解明に取り組みました。

 組織が組織にとって都合の良い報告をあげてきたり、組織に不都合な事実を隠したりしてきても、関連する他の証拠や他の主張との矛盾点を突いて、真実を究明していく。それを繰り返すうちに、組織は不都合な事実を最初から出してくるようになりました。

「責任はすべて取る」と明言すれば
不都合な情報も集まってくる

 その際、トップとして組織に号令を出していたのは「出すと不都合、不利な情報ほど、早く上げるように。隠してバレたというのは最悪で、挽回不可能。不都合な事実、情報を出した後の批判に対する対応は僕がやる」というもの。これを繰り返し言い続けて、実践してきました。

 不都合な情報が出てきたときに、リーダーがオロオロ動揺したり、ましてや部下を怒鳴りつけたりするようでは、組織は悪い情報を出さなくなります。

 また、リーダーが「何も問題はない」「一点のやましいところもない」と最初に言い切ってしまうと、組織として悪い情報を上げられなくなります。ゆえに真相の解明に挑むリーダーの号令、態度、振る舞いは重要なのです。