そして、自らの手で確認できた事実を中心に、世間や相手方に対して説明を行う。ただ、これが意外に難しい。人間はどうしても自分の行為を正当化したくなるので、自分に不都合な事実はあえて公にしなかったり、自分に都合のいいように解釈したりしてしまうものです。

 しかし、繰り返し述べますが、最初の段階で、自分の行為を正当化し、責任を否定する姿勢を示すようなことは絶対にやってはいけない。後に、自らの説明に反する事実が出てきた場合、回復しがたいほど信頼を傷つけることになるからです。あくまでも事実を中心に説明をしてください。

 そしてなんといってもSNSの時代です。大手マスメディアが報じなくても、一個人が発信した内容があっというまに世間に広がります。ゆえに不都合な事実を隠し通せるとは絶対に思わないことです。

「オフレコは必ず広まる」と心得よ
不用意な発言はどんな場所でも絶対NG

 そして、不用意な発言は、どこの場所においても絶対にやらないことです。場の雰囲気などで調子に乗って話してしまうということは絶対にやってはいけません。一番ピンチになったときに、そのような会話内容が表に出てくるものです。

 僕は政治家がよくやる「オフレコ」、ここだけの話というものを一切しませんでした。酒場で酔っ払ったときにする話も、必ずどこかで出回ると自覚して喋っていました。特に政治家はお喋りが多く、秘密を守れない人が多い。「誰々がこう言っていた」という話を吹聴するのが大好きで、僕の話も必ずどこかで話されるんだろうな、と覚悟していました。

 余談ですが、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』というアメリカの大ヒットした政治ドラマがあります。策略・謀略の限りを尽くして一議員から副大統領、そして大統領に上り詰めていくストーリーです。オバマ元大統領もファンだったそうで、安倍前総理が「(副総理の)麻生さんには見せたくない」と発言したり、習近平国家主席も「中国には『ハウス・オブ・カード』のような権力闘争はない」と言及したりして話題になりました。

 このドラマが現実の政治の世界とはかけ離れているところは、政治家である主人公の策略・謀略の会話が一切、ICレコーダーで録音されていない点です。物語上の発言がメディアで公になったら、直ちに主人公は失脚してドラマは成立しなくなるでしょう(ただし、作中では他の人物の謀略だけは暴かれて彼だけが出世していきます(笑))。

 口が軽い、というのは日本の政治家に限ったことではありません。人間誰でも基本的にはお喋りですし、いざというときには正義感に駆られて事実を公にする。

 不都合な事実は隠し通せません。そして、最初に不都合な事実を隠しておいて、虚偽の説明をした後に、当初の説明と違う事実が出てくると、信頼失墜のスパイラルが止まらなくなります。この状態になると、本当に違法・不正があったのかどうかは問題ではなくなり、ただただその人の言うことなすことを信頼できないという状況に陥ります。

 まさに、正しいかどうかを問う実体的正義の問題ではなく、もはや何を言っても正しいとは「みなされない」という手続的正義の問題になってしまうのです。こうなることだけは絶対に回避しなければなりません。

※本文は書籍『決断力 誰もが納得する結論の導き方』を一部抜粋して掲載しています。