「特に国立大学で顕著ですが、研究の予算は年々減らされており、若い人は大学に残ることができず、企業に就職するか、海外大に行くかどちらかを選択するしかない。そうした理由で海外に行った研究者の中にも、実は日本に戻りたいという人は多いのです。しかし、そもそも日本の大学には教員のポジションがない。どこの国の人でも、同じ待遇、あるいは少し下がるぐらいだとしても、海外より母国の大学で研究したいものですが、ポジションがないとなると選択のしようがない。

 また日本の大学では、若手の場合、何年も助教として教授のお手伝いをするといった序列が今も残っています。一方、これは中国に限りませんが、海外では30代前半の研究者が教授のお手伝いではなく独立して自分の研究室をもつことが可能です。これは日本ではほぼ不可能ですから、若い研究者にとって海外には大きなチャンスがあるわけです」

 一方、日本の研究者が中国で研究することについては、国内から問題視する声も上がる。海外から優秀な研究者を集める中国の人材招致プロジェクトである「千人計画」だ。菅義偉内閣は今年2月の国会で、千人計画に関する質問主意書に対する答弁書を出した。そのなかで同計画について「研究活動の国際化、オープン化に伴い、利益相反、責務相反、科学技術情報等の流出等の懸念が顕在化しつつある状況」などと触れており、日本政府は対応を検討している。

 先の在中研究者も、千人計画に応募して中国へ渡った一人だ。同氏は匿名で取材を受ける理由として、「自分は技術流出と無縁な基礎研究者であるにもかかわらず、千人計画を通して中国への違法な技術流出や軍事研究に関わっているといった脅迫や嫌がらせを受けたから」と話した。

「『中国は役に立つ技術をもつ研究者を引き抜いている』と思っている人もいるようですが、むしろ日本のほうがすぐ役に立つ研究ばかり重視しています。基礎科学の研究はかなり余裕がある国でないとできないので、少子高齢化で財政も厳しい日本で予算が減らされてしまうのは仕方のないことかと思います。すぐに役に立つかどうかわからない基礎科学の研究者が日本ではどんどん追いやられ、中国など海外に行って研究をしているのです」

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 日本の大学が研究力を伸ばし、国際的に評価されるにはどうしたらいいのか。前出の角南さんはこう指摘する。

「中国の場合、教員の若返りが大きかったと思います。重点大学を指定して新しい取り組みを始めたときに、海外から多くの教員が帰国し、新陳代謝が起きました。日本は人材の流動性が低く、出身大学に残って教員として学生を教えるということが多い。海外だけでなく、国内でも大学を移動して『武者修行』に行かせ、競争力を高めていく改革が大事かと思います」

(文/白石圭)

AERA dot.より転載