大衆の小賢しさをランドは嫌った。その小賢しさから本当の利益に盲目になることが、たかり屋を生み、育て、社会を悪くする。知性を生かしてしっかりと考えよ、とランドは人々に強く要求する。

 ランドの思想をまとめれば、徹底的な自助努力の要求と、卓越性への希求、発明・アイデアの重視と生産し交換する資本主義の徹底、最小限の政府と人民が知性を使い自分で考えて正しい(利己的な)選択をすることである。その主張は、極端だが一つの理想形ともいえる。

ランドの思想の影響が濃厚
現代アメリカ社会の実像

 出版から60年以上たち、いまだに読み継がれる本書は、アメリカ社会にどのような影響を与えているのだろうか。

・個人主義の徹底と非妥協

 個人の利益を強く意識することが正当化され、公共善などというものは幻想であると解釈して、妥協しないのが本書である。ランドの言う利己主義は、長期的視点に立ち、知性を用いて個人の利益の最大化を図るものだから、本来のランドの理想に基づけば、社会全体の利益を考慮することも全く含まれないわけではない。

 しかし、人間はそれほど賢くない。享楽主義的な個人のわがままな行動ですら、当人には正しい利己主義のように正当化され、堂々と実行されることがある。それを押しとどめるものは強制力を持った法規制以外にないが、法規制をする議会でさえ、個人の自由を強く求める思想の影響を強く受けすぎ、社会運営に適切な法規制が構築できない恐れもある。そうなると秩序は崩壊しかねない。現に近年のアメリカはそうした危うい状況にあるようにも見えるが、その状況の形成に本書は貢献している。