政府は経済運営と感染対策を追うよりも
「一兎」を追う政策スタンスを明確に

 わが国経済を取り巻く環境の不確実性は、かつてないほど高まっている。

 米中と異なり、わが国には世界的な競争力を持つIT先端企業が見当たらない。景気は海外経済の動向や移動制限に影響される。感染再拡大によって、飲食や宿泊、交通など非製造業の業況はより厳しくなる恐れがある。インバウンド(訪日観光)需要が蒸発した影響も大きい。

 足元の景気を支える製造業も大きな変化に直面している。バブル崩壊後の経済の低迷を支えてきた自動車産業では電気自動車(EV)シフトという「ゲームチェンジ」が進む。半導体の部材や製造装置など微細なモノづくりの力は維持されているが、経済全体で見ると最先端分野での成長期待は高まりづらい。

 わが国が自律的な景気回復を目指すことは容易ではない。それに加えて、感染の再拡大は人々の防衛本能を強める。それは、人口の減少がもたらす経済の縮小均衡を勢いづかせ、国内需要の伸びを抑える。それは、世界的に見たわが国の消費者物価指数の伸び率の鈍さの一因だ。

 政府に求められることは、二兎(経済運営と感染対策)を追うのではなく、一兎を追う政策スタンスを明確にすることだ。つまり、ワクチンや治療薬の確保・開発を含めた感染対策を徹底して人々の安心と健康を守る。長い目で考えた場合、それが経済を守ることにつながる。

 その上で政府は、人々が新しいことに取り組む環境を整備しなければならない。それによってわが国企業が高付加価値のヒット商品を生み出すことができれば、理論上、経済の縮小均衡を食い止めることは可能だ。口で言うほど容易なことではないが、感染対策を徹底した上で労働市場の改革や教育内容の向上など、政策課題には掲げられてきたものの踏み込み不足の取り組みを真剣に進めることが、中長期的なわが国経済の展開を左右する。