五輪中の第5波拡大が避けられない
構造的な理由

 オリンピック選手は8割がワクチンを接種していてPCR検査も受けています。それでも一定数の感染者は出ていますが、そもそものワクチン接種率が高く、(ルールが緩いことが危惧されているとはいえ)バブル方式で隔離もされているので、お互いから感染する確率は実はそれほど高くはない。選手村の部屋の中でどんちゃん騒ぎをしている声がするという報道はありますが、クラスターリスクはそもそもそれほど高くはない集団なのです。

 一方で、東京都民は違います。日本もワクチン接種回数はリカバリーを始めていますが、それでも100人あたりの接種回数はまだ61回。ワクチンを2度打ち終わった人を多めに見積もっても、まだ3割の集団免役率でしかありません。その大多数に相当するのは優先接種した3800万人の高齢者ですから、絶対数として見れば若者にはまだワクチン接種を完了した人が少ないのです。

 そのような状況でも、五輪のメダルラッシュで沸いて、ついつい浮かれて人々が外に出てしまいます。いくら「五輪は家で観戦しましょう」と政府が呼びかけても、トライアスロンや自転車競技、ウインドサーフィンなど屋外で行われる競技では、一目見ようという観客が大挙して訪れます。

 ブルーインパルスが飛行すれば大勢の人が撮影に出かけ、金メダル獲得の瞬間を目にした後は感動にひたるためにお酒を買いに外出する。そもそも、オリンピックを地元・東京で開催しながら、都民全員が家に閉じこもるというのは想定上無理があるのです。

 そのことから私は「ひとびとの外出が増えることで五輪期間中に第5波は大幅に拡大する」と予測したのですが、結果はその通りになりました。しかし、私は同時に「その際の第5波の死者数は実は少ない」とも予測しました。

 背景となる要因が二つあります。一つは昨年夏の第2波を見ても分かるとおり、感染者数が多くても夏のコロナは死のリスクが低い。これがひとつめの要因です。そして二つめの要因は、ワクチン接種率が低いといっても高齢者の多くがすでにワクチン接種を終えているという事実です。

メダルとコロナの「Wラッシュ」で、日本に起こる3つのこと図2 日本の週ごとの感染者数と死者数(WHOデータを基に筆者作成)
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 図を見ていただくと分かります。図2は日本の感染者数のグラフです。さきほどのアメリカのグラフと異なり、図表の中で赤線で印をつけた今年2月の段階では、まだワクチン接種は医療従事者への先行接種がようやくはじまったばかり。一般の高齢者への接種が本格化したのは5月以降です。

 グラフを見るとまさにそれを裏付ける状況となっています。2月に緊急事態宣言がいったん解除されたあと、3月に第4波が襲い、感染者も死者数も第3波と同じ水準で立ち上がります。ここで、図表の下側の死者数のグラフに注目してください。3月から4月にかけて増加傾向にあり、2度目の危機が訪れていたのです。しかし、ワクチン接種が進んだ5月以降、日本の死者数は激減していきます。

 実は、日本の新型コロナの死者の95%は60歳以上が占めていました。そしてファイザーとモデルナのワクチンは2度接種することで95%の感染予防効果が実証されています。つまり高齢者層にほぼ100%の比率でワクチン接種を行うと、日本全体で9割の死亡リスク(つまり95%×95%)は理論的に減らすことができるのです。

 そして、死者数のグラフを見ていただくと分かるのですが、この7月、東京で第5波が急激に拡大している中でも、死者数は収束に向かいつつあります。これが4番目の予測である、「2021年夏、感染者数は大幅に増えるが死者数が低い状態にとどまるだろう」の根拠です。

 ここで若い人に注意していただきたいのですが、死なないとはいえワクチンを打っていない20代、30代の感染者は爆発的に増加していますし、重症者もそれに比例して増えています。

 若い人は死ぬ確率は低いのですが、免役を持たない新型の伝染病ですから感染すれば発症する確率は高いです。中症化ないしは重症化することで高熱が出て呼吸の苦しい日が続き、かなりつらい思いはするわけです。この理解が不足しているので、若者の無防備な外出はあいかわらず止まりませんし、医療現場の苦労は続いているというわけです。