コロナ治療経験がある開業医がいない
防護具の着脱も訪問先によって異なる

 現在の感染拡大が、大きなうねりで収まるのか、それを超える津波になるのか、正直なところ、私たち医療者は恐れています。

 一方で、医療従事者以外の方と接すると、「え?そんな感じ?」といった反応が多く、温度差を感じます。ワクチンを接種済みの方とは特に。

 そんな中、政府は8月2日、コロナ患者について、入院するのを重症リスクの高い人に限定する方針を示したため、これまで原則入院としてきた中等症でも、自宅療養で対応する患者が増加する可能性が高まります。

 普段から病院に勤務している医師は1年以上にわたる新型コロナウイルス感染症対応で疲弊しています。そもそも以前から日常診療で忙しく、これに加えて自宅療養されている患者さん宅に訪問診療するのは困難ですから、開業医による対応を期待する声があります。

 しかし、地域の開業医はワクチン接種業務に忙殺されています。さらに、訪問診療を普段から行っている医師はもともと少なく、新型コロナウイルス患者さんの診断や治療の経験に乏しい医師が自宅療養者に対応することは、現実的ではありません。

 そもそも新型コロナウイルス陽性と判明した時点で、患者さんは入院もしくは宿泊、自宅療養となりますから、多くの開業医は新型コロナウイルスの患者さんを診療した経験もないのです。

 市内の開業医にアンケートを実施したところ、医療機関に赴くことができない濃厚接触者に訪問検査が可能と答える医師はわずかでした。健康上の理由や自身が高齢であることもあるでしょう。さらに、訪問診療にはそれなりのノウハウや、他の医療機関との連携が求められます。

 例えば、PPEと呼ばれる防護具の着脱ひとつ取っても、訓練が必要です。病院とは異なり在宅では、風が吹き、暑く、雨も降ることがあります。コロナ差別がありますから、物々しい格好で訪問することははばかられます。また訪問先の住宅の状況は、玄関を開けてみないと分からないことが多々あり、家の中のどこで、どのようにPPEを着脱するのかなど、適宜、適切な判断が必要です。

 また、解熱剤の調達など薬局薬剤師との連携も重要です。普段から関係性ができている薬剤師であれば、訪問先の郵便受けに入れてくれたりしますが、そうでなければ、新型コロナウイルス患者さん宅への訪問自体を断られることもあります。