もうろうとした患者に保険証の確認も
ノウハウの共有は間に合わない

 そして、そもそも患者さんの自宅を探してたどり着くことが大変で、道路が狭い鎌倉市で車を止め、いざお宅へたどり着いても、息苦しかったり、高熱でもうろうとしている患者に保険証の確認を求めたり、遠隔でもスマートフォンで撮影して送るようお願いする、服薬状況の確認、既往症の確認など、訪問診療固有のハードルが多々あります。

 一部の自治体では、自宅療養者に血中酸素飽和度を測るパルスオキシメーターを配布するケースがあります。しかし、高齢者や状態が悪い方は装着方法のマニュアルだけでは正確な酸素飽和度の評価が困難です。機器を逆さに装着するなどトラブルも多く、看護師などが赴いて適切な装着方法を指導することが大切になります。

 私自身はさまざまなご縁をいただき、入院ができない患者さんを仕方なく在宅で診療された全国の医師からオンライン会議で現場感を教えていただきました。こうしたノウハウをオンライン会議や動画で共有し、開業医が学ぶ仕組みがあればいいのですが、それも、実現するとすればこれからになります。

 幸いなことに神奈川県は以前から、入院優先順位を症状などからスコア化して決める目安を作っていますし、自宅療養の新型コロナウイルス患者に対する医療提供プロトコールも、各種学会連合体としてガイドラインで示されてはいます(一般社団法人 日本在宅ケアアライアンス)。

 ただ実際の入院適否は症状などだけではなく、社会的要因(同居家族や認知症の有無など)も踏まえ総合的に判断されます。このような判断は、普段から認知症患者さんや社会的弱者に対応し、介護保険制度や地域医療体制に精通した医療者でないと難しいのではないでしょうか。

 中等症でも入院できない可能性が高まる政府の判断について、現在強い批判が集まっています。

 ただ、感染拡大が今以上に深刻化した場合、受け入れ可能な病床や対応する医療従事者が足りなくなって、症状が重くても入院できないといったケースが出ることは、残念ながら否定できません。

 新規感染者が比較的少ない地域への広域搬送や、急性期ではなくなった患者さんの転院などによって、病床の目詰まりを防ぐ工夫が必要です。自宅療養でも、酸素濃縮器で自宅での酸素吸入を可能にするなど、私たち医療者は、限られた資源のなかで全力を尽くすことになります(在宅で使用できる治療薬はステロイドのみです)。

 残念ながら、今から医療資源を急激に増やすことはできません。全国の先行事例の共有、思いがある医療者へのサポート、ならびに医師会、行政、保健所が今以上に連携して地域の仲間でこの大波を乗り越えたいと思います。

◎長谷川太郎
はせがわ・たろう/1995年東京慈恵会医科大学卒業。平塚共済病院、大船中央病院などに勤務し、女性泌尿器疾患、泌尿器悪性腫瘍を専門に治療。2013年に「湘南泌尿器科・内科」を開設、17年に現在の名称に改称。