事業をたためと言っているのではなく、今のビジネスモデル、今の業態を維持することにスパッと見切りをつけて、新規事業へと舵を切っていったらどうか、と申し上げているのだ。

 賃上げ分、従業員の数を減らすなどして今年度をどうにか乗り切ったとしても、世界的な潮流である賃上げは来年以降も続いていく。時給930円を捻出できない今の事業にしがみついているより、リスクはあっても事業転換にチャレンジをして、時給930円が余裕で払えるようなビジネスモデルを構築していった方がはるかに将来性がある。最低賃金スレスレで、稼げない仕事を続けさせられる従業員にとっても、そちらの方がハッピーだ。

国が「業態転換」を支援して進めようとしている

 と聞くと、殺意を覚える経営者の方もいるかもしれない。苦しい状況でも、自分の仕事への誇りを失うことなく、歯を食いしばって頑張っている日本の宝・中小企業を、このバカライターはおちょくっているのだ。SNS名物「誹謗中傷」で徹底的に追い込んで抹殺してやる…とスマホをいじり始めた経営者の方もいらっしゃるかもしれないが、早まらないで聞いていただきたい。

 これは何も筆者がテキトーに思いついた話ではなく、日本政府が言っていることなのだ。

 7月31日、経済産業省が、最低賃金の引き上げで影響が出そうな中小企業が「業態転換」を進めていくための補助金の受け付けを始めた、というニュースがあった。事業再構築補助金に「最低賃金枠」を設けて、従業員の1割以上が最低賃金に近い水準の賃金で雇う企業には投資額の最大75%を補助するという。通常の補助率は通常は最大約67%なので、露骨な「優遇枠」と言えよう。

 当たり前の話だが、国がわざわざ予算を組んで、産業支援をするのは、その制度をどしどし利用してもらいたいからだ。つまり、この政策は日本という国が、時給930円が払えない中小企業経営者に対して「支援しますからさっさと業態換えしてくださいね」と呼びかけていることと同じなのだ。

 事実、中小企業庁が今年4月28日にまとめた「中小M&A推進計画」で、検討会の事務局説明資料(令和2年11月11日)の中には、はっきりと、「中小企業に経営資源を集約し、業態転換をはじめとする経営革新を推進することが重要」と明記されている。

 要するに、今、中小企業経営者の皆さんがやるべきことは天を仰いで、「神様!もっともっと日本の賃金を低く、時給800円くらいにしてください!」などと願うことではなく、「業態転換」なのだ。