政府の真の課題は「人流抑制」
個人は引き続き「自衛」が必須

 東京五輪開催にともなって人流が増加しています。その状況下でデルタ株がまん延しはじめているため、職場、繁華街、学校など人が密になっている場所でのクラスターが増加しています。デルタ株は、ワクチンを接種していて発症しない人でも感染はするのです。

 一方でワクチンを接種した人に関していえば、死亡リスクはこれまでとは異なり極めて小さくなってきている。つまり基礎疾患があるなどリスクの高い人でなければ、第4波以前とはかかえるリスク前提が違ってきているという別の事実があります。

 そのようなことを総合的に勘案して政府は、入院基準を変更しました。これは従来の基準では入院患者が増えすぎて救える命が救えなくなるからという理由からです。しかしコロナにかかると中等症レベルでもかなり苦しい思いをすることになります。その中からあっという間に重症へと移行する患者も出てきます。

 そのことを考えると、政府がやるべきことは本当は入院基準の変更ではなく、人流の制御にどこまで踏み込むかのほうが重要なはずです。ただそれを、政治のリーダーシップには求めることが徐々にできなくなってきている。医療崩壊の前に、政治家によるコロナ対策体制が崩壊し始めているとみるべき状況だと思います。

 だとすれば、わたしたちがなすべきことは自衛です。今の東京は、首相の言うような安全安心な場所では決してありません。感染しやすいデルタ株のおかげで、自分が感染するリスクは実は増大している。そう考えると、オリンピック観戦はテレビにとどめて、なるべく外出しないようにというのが正しい自衛方針だと私は思います。

 既にワクチンを打たれた方はまだ少しは安心なのですが、それでもワクチンを2度接種できた国民の数は4000万人に届いていません。ワクチン接種が進めばもう少し状況が好転するはずです。あと少しの頑張りです。ぜひ読者のみなさまがこの夏を安全に過ごすことができますようにと、心からお祈り申し上げます。

追記:8月5日午後段階ではまだ東京都も「医師の判断で中等症患者について自宅療養に切り替え」と説明していました。この間、与党の撤回要求を政府が了承し、5日夜段階で厚生労働省は説明資料を修正し「中等症も原則入院対象」と明確化したようです。
 現在、この問題は解消されつつあります。一方で厚生労働省幹部は今回の修正について「中身を変えているつもりはない」と強弁しています。そしてデルタ株感染者はこの後も増加リスクがありコロナ対応病床のひっ迫が予想されます。政府方針が再度変更されないかどうか、メディアによる監視の継続が今後も必要だと思います。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)