小川 子どもらしい発想ではありますが、やはりちょっと突き抜けていますよね。3歳のときにお母さんをなくしているので、最初はさびしさを紛らわす方法だったのでしょう。それから演技やお芝居にハマっていくんです。

「なりきる」体験の効果

加藤 これを読んであらためて思ったのは、「なりきることの効果」です。欧米では「ドラマ」が習い事の1つになっています。子どもたちが演劇を通して表現力や思考力、共感力、想像力と創造力を身につけることができると言われているんですよね。

 たしかに、お芝居のストーリーを理解して、セリフも記憶して、登場人物に感情移入して演じるわけですから、さまざまな力がつくと思います。最近は日本でも習い事として注目されつつあります。

 英語の学習でも、お芝居の登場人物になりきって話すと、生きた英語が使えるようになるということがよく言われます。実際に、「男子御三家」と言われる私立中学・高校の1つ、武蔵では、英語の授業に演劇が取り入れられています。英語を頭だけでなく肌身に感じる体験を通じて、確かな英語力が身に付くのだそうです。

 それから、ドラマ教育をやっている方に伺ったのですが、ふだん感情表現が苦手な子どもでも、お芝居をしてもらうと、うまく感情を出すことができて自己肯定感が高まるといいます。

小川 イングリッド・バーグマンも極度に内気で、すぐに真っ赤になるし、学校では一度も手を挙げたことがなかったそうです。だから女優になりたいと言うとまわりに笑われました。

 でも、本人は自信を持っていて、自己肯定感は高かったと思います。お父さんがイングリッドの「なりきり」を強みとして認めて応援したことも大きいでしょうが、演技そのものにもそういう効果があるんですね。

「ごっこ遊び」は多くの能力をはぐくむ

加藤 習い事でなくても、絵本や「ごっこ遊び」で、家庭の中でも似たようなことができそうです。発達心理学の権威と言われるレフ・ヴィゴツキーによれば、ごっこ遊びは「認知・情緒・社会的発達をうながす高度な遊び」です。

 ごっこ遊びを通じて、「主体性」「コミュニケーション力」「言語力」「創造力」「集中力」「記憶力」「計画性」という7つの力が育まれるといいます。

小川 息子がお友だちとごっこ遊びをしているのを見ると、すごいクリエイティブだなと感心することがあります。自分たちでつくりあげた世界の中で、本当のことのように動き、感情を動かしています。

1つの習慣:積極的に「受け入れる」

加藤 小川さんは、イングリッド・バーグマンのストーリーから学べる子育ての視点って他にどんなことがあると思われましたか?

小川 やはりお父さんの存在が大きかったと思っていて。加藤さんの『子育てベスト100』に「受け入れる」という項目がありますが、お父さんはイングリッドのありのままを受け入れていたのだと思います。

加藤 イングリッドが犬になりきってオシッコのマネをしていても、それを受け入れていますもんね。

小川 そうなんです。基本的に「いいね、いいね」なんですよね。それから、お父さんの親友がお友だちを夕食に招いている中にイングリッドもよく呼ばれたそうです。

 そこで、「何かお芝居やって」と言われて、演技をするんです。どんなお芝居をしても、みんな拍手。最高の観客たちだったそうです。

加藤 それはいいですね。お父さん以外の人がそうやって認めてくれる機会は、イングリッドにとって大きな意味があったのではないでしょうか。

小川 いつも拍手してくれる人たちがいたから、自信を持って突き進むことができたのかなと思います。親はつい心配になって、できていないところに目がいってしまいがちなので、そうやってほかの人が褒めてくれるのは、子どもにとってもすごくいいですよね。
>>対談次回「『エジソンの親』がしていた、才能を伸ばす3大習慣」に続く