不動産相続における「納税資金」不足
有効な解決策はあるのか

 では、売れない土地、売れにくい土地を相続し、相続税の納税資金が足りない場合はどうしたらいいのだろう?有効な手だてはあるのだろうか。一般的には、後述の方法が考えられる。

●延納
 相続税は、相続発生から10カ月以内に一括で全額納付するのが原則だ。しかし、納税資金が不足して、どうしても納められない金額の部分は年払いの分割納付にする制度がある。それが、「延納」だ。「延納」するには、以下が要件となる。

(1)相続税額が10万円を超えること
(2)金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること
(3)延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること
※ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はない
(4)延納申請に係る相続税の納期限または納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること

「延納」にも、もちろん審査がある。審査が通って許可された後、その条件で延納続行が困難になったときは「物納」へ変更が可能だ。これを「特定物納」という。ただし、申告期限から10年以内に限られ、「特定物納」も利子税を払わなければならない。

●物納
「延納」によっても金銭で相続税を納付するのが困難な場合は、「物納」という制度がある。「物納」できるのは不動産に限らず、有価証券でも可能だ。「物納」の要件は以下となる。

(1)延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること
(2)物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、次に掲げる財産および順位(【1】から【5】の順)で、その所在が日本国内にあること

第1順位【1】不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含むが、短期社債等は除かれる)、【2】不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第2順位【3】非上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含むが、短期社債等は除かれる)、【4】非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
第3順位【5】動産

 しかし、不動産の「物納」も「国庫帰属」同様、かなり審査が厳しい。

●金融機関からの融資
 銀行、信用金庫などの金融機関から融資を受けて、納税資金の不足分を借り入れる方法もある。この場合、担保の設定とその設定費用、金利の負担が必要となる。これらが「延納」の利子税より低い場合は利用価値がある。ただし、もちろん、金融機関による審査がある。

 被相続人(財産を残して亡くなった方)が何らかの生前対策をしていればいいが、それをしていないから、相続人は納税資金不足に頭を悩ませるのであろう。被相続人が施しておくと良い生前の相続税対策はほかにもあるが、ここではあえて割愛させていただく。

 相続人が自ら相続発生前にやっておける相続税対策のひとつが、「納税準備預金口座」の開設だ。通常、金融機関の普通口座の預金利息には所得税がかかるが、納税目的の預金なら所得税は非課税となる。相続税だけでなく、あらゆる税金の納税資金として活用できる。

 仮に、金融機関からの融資や「納税準備預金口座」を利用して、相続税を納税できたとしよう。それでも、該当地域の路線価と実勢価格の差額が大きく、相続税額に納得がいかない。そんなときは、やはり相続税専門の税理士に相談してほしいと思う。

「更正の請求」による「相続税の還付」が可能な場合もあるからだ。相続税に精通した税理士であれば、不動産鑑定士と連携して、税務署に対して説得力のある資料を用意することもできる。