「本当だよ。仕事がないときはゆっくりコーヒーでも飲みながらオリンピック観戦もOKだし、他のチャンネルも見放題。ウチのテレビは8K画面で大迫力だぞ。今から君の仕事部屋を案内しよう」

 A子が案内されたのは玄関の隣にある社長室で、壁の中央には大画面の8Kテレビが置かれていた。しかしB社長は出張が多くほとんど出社しないため、A子は1人で部屋を使うことができた。喜んだA子は7月から甲社の事務社員として働くことになった。

朝7時には出社して掃除をするように

 初出勤の朝7時45分に会社の玄関に入り、タイムカードを押したA子はその場でC専務に呼び止められた。

「A子さん、明日から毎日会社が始まる1時間前に出勤して、事務所の中と外回りのお掃除をお願いしますね」
「始業前の掃除の件はB社長から聞いていませんが……」

 するとC専務はムッとした表情で言った。

「始業前に職場をきれいにするのは当たり前でしょう?そんなことも分からないの?まったく最近の若い子は何を考えているんだか……」

 そして

「とにかくよろしく頼んだわよ」

 と付け加えた。

 出社早々、C専務にカウンターパンチをくらったA子は、社長室に入り仕事を始めた。午前中は、A子の仕事内容についてC専務から渡されたマニュアルを読み、事務所にかかってきた電話を3本取り、C専務から頼まれた書類を作成した。しかし、仕事をした時間は合計1時間で、あとの時間はテレビを見ながら過ごした。