米国は雇用に配慮し
「良いとこ取り」の妥協案

 現在、世界には3つの大きな新車販売市場がある。大きい順に、中国(20年の販売実績、2531万台)、米国(同1458万台)、EU(同994万台)だ。現在、米欧が自動車の電動化に関する政策を、より厳しい方向に引き上げている。ポイントはPHVとHVの扱い方だ。厳しい順に並べると、EU、米国、中国となる。

 まず、欧州委員会は35年に販売できる新車をEVなど走行時に温室効果ガスを排出しない車に限定し、HV、PHVを含むガソリン車、ディーゼル車の新車販売を事実上禁じる方針だ。欧州委員会はFCVも電動化の手段として重視しているが、FCVの場合、水素を700気圧にまで圧縮する高圧タンクの製造コストが高い。そのため、EUは電動化のメインとしてEVを重視し、関連する政策の立案を急いでいる。EU市民の間では、気候変動問題への危機感が強く、欧州委員会はその方向に進まざるを得ない。

 2番目に基準が厳しいのが米国だ。米国は、30年に新車販売の半分をEV、PHV、FCVにする方針だ。欧州と異なり米国はPHVを含める。公約に気候変動への取り組みを掲げたバイデン大統領は脱炭素への取り組みを進めなければならない。

 その一方で、バイデン政権は産業、雇用にも配慮しなければならない。環境と経済の両方に配慮した結果、EVとエンジン車の「良いとこ取り」をしたPHVを含めることで妥協点を見いだしたといえる。ただし、カリフォルニア州は35年までにすべての新車をゼロエミッション車にする計画であり、米国の自動車電動化は加速する可能性がある。

 3番目が中国だ。中国はEV、PHV、FCVを「新エネルギー車」(NEV)に区分して補助金などの対象とし、HVは低燃費車として優遇する。中国では豪雨や大気汚染が深刻化しており、脱炭素への取り組みは待ったなしだ。ただ、中国は製造技術面に弱さがあるため、PHVに加えてHVも重視する。HVおよび内燃機関の製造に強みを持つわが国は、EU、米国、中国ほどの踏み込んだ政策を示せていない。このように主要国はそれぞれの事情を考慮して電動化を進めている。