工業製品の評価にLCAが与える影響
欧米大手は先行して対策を急ぐ

 自動車の電動化が急がれているのは、温室効果ガスの排出によって、想定を上回るペースで地球温暖化問題が深刻化しているからだ。特に、過去に例を見ない洪水や山火事に見舞われているEU各国の危機感は非常に強く、脱炭素関連政策の立案が急ピッチで進んでいる。

 まず、23年に欧州委員会は、炭素の「国境調整」(環境規制が緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける制度)の導入を目指している。それに加えて欧州委員会は、原材料の調達、生産、廃棄によって排出される二酸化炭素の量を評価するLCAの確立にも取り組んでいる。現状では、24年7月から車載バッテリーや産業用の充電池を対象に、ライフサイクル各段階での二酸化炭素排出量の計測と第3者による証明実施が予定されている。

 工業製品などの価値評価にLCAが与えるインパクトは大きい。LCAに対応するために独フォルクスワーゲンは洋上風力発電事業に参入した。走行時にEVは温室効果ガスを出さない。しかし、生産工程ではガスが排出される。同社は、EVライフサイクルの中で温室効果ガスの排出量が大きいバッテリー製造を中心に再生可能エネルギーを用いた自動車生産を目指している。

 また、米国でもLCAを重視する企業が増えている。20年7月、アップルは30年までに、自社のビジネス、サプライチェーン全体、および製品のライフサイクルすべてにおいてカーボンニュートラルを達成すると発表した。マイクロソフトはさらに野心的で、30年に「カーボンネガティブ」(排出量<吸収量)を達成し、50年までに1975年の創業以来に直接、および電力消費によって間接的に排出した二酸化炭素を完全に除去すると表明した。

 製品のライフサイクル全体でどれだけ温室効果ガスの排出を抑えられているかが、顧客企業や消費者により厳しく評価される時代が到来している。