火力発電による日本製品は
競争力を失う

 LCAを基準にした製品やサービスの評価の定着は、火力発電によって電力を供給しているわが国経済にとって大きなマイナスの影響を与える恐れがある。火力発電を主とするエネルギー政策の下で生産活動が続けば、メード・イン・ジャパンの製品の競争力は大きく低下する、場合によっては失われるかもしれない。

 わが国に求められることは、経済活動の基礎であるエネルギー政策の転換を進めることだ。具体的な方策として、再生可能エネルギーの切り札といわれる洋上風力発電をはじめ、太陽光発電、水力発電などの推進が待ったなしである。

 洋上風力発電に関しては、わが国には大型の風車を生産できるメーカーがない。その状況下、まず、海外の風力発電機メーカーからの調達を進める。その上で海外の再生可能エネルギーを支えるインフラ導入の事例を参考にして、再生可能エネルギーを中心とする発電源構成を目指すことになるだろう。

 そうした取り組みが遅れると、欧州などでLCAを基準とするサプライチェーンおよびバリューチェーンの整備が進行し、わが国企業のシェア、および競争力は低下する可能性が高まる。

 例えば、鉄鋼メーカーであれば高炉にコークスを投入して銑鉄を生産することは難しくなることが懸念される。脱炭素のために水素を用いた製鉄技術の確立が目指されているが、水素利用(再生可能エネルギーを用いた製造、運搬、貯蔵)のコストは高い。

 コストを吸収することが難しい場合、かつてワープロの登場によってタイプライターの需要が消え、パソコンがワープロを淘汰したように、個々の企業だけでなく産業そのものの存続が危ぶまれる展開も考えられる。そうしたリスクにどう対応するか、政府は迅速に、エネルギー政策をはじめ産業政策のグランドデザインを提示し、経済全体が向かうべき方向を示さなければならない。