確定拠出年金の運用は
GPIFを参考にすべき

 そこで筆者は、確定拠出年金の加入者もGPIFの資産構成を参考にしてみたらどうかと考える。長期にわたる資産運用においてはなるべく一定のルールに基づいて恣意的な運用をしない方が安定した結果を得られるはずだ。GPIFという190兆円近くもある大きなファンドが過去20年間にわたって3.7%という安定した成果をあげることができたのも、4つの基本的なアセットクラスに分散してインデックス運用をおこなってきたからであろう。

 もちろんこの20年間、全て米国市場で運用するとか、あるいはそこまでしなくても全て株式に投資し、それも全世界の市場に投資をしていれば恐らくもっと良い成績をあげることができたであろう。しかしながらそれは結果論であり、自分でリスクを負える個人が自身の判断でおこなう分には良いが、公的年金の運用で、それをおこなうにはあまりにもリスクが大きすぎる。

 もちろん確定拠出年金の加入者の中には投資経験の豊富な人や自分でしっかりと投資の方針や考え方を持っている人も多い。そういう人は何もGPIFの運用など参考にせずとも、自分の判断にしたがって、運用すればいい。ところが多くの確定拠出年金加入者が運用に不慣れで、その資産の大部分を定期預金で放置しているという状況を考えると、企業が実施する投資教育の場などで、公的年金の運用の実態についても情報提供をしてもいいのではないだろうか。

 同じ確定拠出年金でも個人型であるiDeCoは少なくとも加入者自身が自分の意思で加入しているだろうが、企業型の確定拠出年金の場合、会社の制度として導入され、本人の意思は関係なく自動的に加入している人も多い。そういう人たちが本来の退職給付よりも少ない額しか受け取れなくなるという事態を避けるためにも、こうした情報提供は必要なのではないだろうか。これは事実を伝えるだけなので、決して特定の運用方法を推奨するわけではない。実際、多くの企業ではいくつかのポートフォリオを参考として加入者に提示している。

 それにGPIFと同じポートフォリオを作るのは決して難しいことではない。企業型確定拠出年金においては、どこの企業のプランでもこの4つのアセットクラスで運用するインデックス型ファンドが用意されているはずだ(もし無ければそれは欠陥のあるプランだと思うので、会社に要求した方が良い)。自分の掛金をこの4種類のファンドに25%ずつ配分すれば良いだけである。あとは極端に株価が上昇したり下落したりした時は1年に一度ぐらい比率を見直して調整すれば十分であろう。

 公的年金も、確定拠出年金のような私的年金も、仕組みは違えども、「老後の生活に備える」という同じ目的をもつ。そのため少なくとも長期にわたって安定的な利回りを目標とする。つまり、公的年金でいえば名目物価上昇率を1.7%上回る利回りを目標とし、確定拠出年金の場合は自社の想定利回りを上回る運用利回りを長期で目指すことを考えれば良いのである。であるなら、運用についてあまり知識や経験の無い加入者の場合は、公的年金の運用を参考にするということはあっても良いのではないだろうか。

※GPIFホームページ:https://www.gpif.go.jp/

(経済コラムニスト 大江英樹)