デジタル庁を指揮する官僚
顔触れは?

 官僚組織としてのデジタル庁のトップは事務次官ではなく、「デジタル監」というポジションが設定されています。8月に入って、そのデジタル監の最終候補として伊藤穣一氏が起用される方向で調整がなされているというニュースが広まりました。これは日本のデジタルの未来を変えるほどのビッグニュースだと捉えられていましたが、残念ながら8月18日夜に政府が伊藤氏の起用を断念するという報道が入ってきました。

 伊藤穣一氏はグローバルなデジタル界の大物です。IT起業家であり、かつてのビットバレーの中心人物でもあり、2011年から2019年までMITのメディアラボの所長を務める一方で、インターネットのさまざまな国際機関に理事として関わってきました。アメリカのIT業界で一番有名な日本人だと言ったほうがわかりやすいかもしれません。

 伊藤穣一氏がメディアラボの所長を辞任した経緯も、スケールが大きい話でした。ビル・クリントン元大統領やイギリスのアンドルー王子、ビル・ゲイツ氏などが関係すると噂されるジェフリー・エプスタイン事件に、伊藤氏も巻き込まれたのです。ダークな噂があるエプスタインからメディアラボが資金提供を受けていたことが、米雑誌『The New Yorker』にすっぱ抜かれ、謝罪のうえで辞任したのです。

 デジタル庁発足のタイミングで伊藤氏の体が空いていたというのは、日本のデジタル全体にとって結果的に幸運なことでした。通常であれば招へいできるわけがない大物を初代デジタル監に据えることができたかもしれなかったのです。

 デジタル庁は500人の陣容の中で120人を民間から登用するもようです。人材としては政治家からのゴリ押しなどでいろいろなレベルの人が入ってくる危惧がありますが、それらの人物の力量を見分けることができる大物が一番上にいるということは、デジタル庁のこれからについて日本人がおおいに期待できる点でした。

 最終的には、伊藤氏がエプスタイン氏と交流があったという点が政府には問題だと捉えられたようで、伊藤穣一氏の起用構想が白紙になったわけです。それと代わるデジタル監が誰になるのか、そしてデジタル庁のいわゆるオフィサー級の起用人事がどうなるのか、ここがデジタル庁の未来を占う最初のポイントになるはずです。