本書『どうしても頑張れない人たち』は、知られざる非行少年たちの認知能力に焦点を当て話題を呼んだベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)の続編である。非行少年や、いわゆる“落ちこぼれ”の子どもたち、あるいは若手社会人にも存在する「頑張ろうと思っても頑張れない」「頑張ろうと思えない」人たちが、頑張れない理由を分析、彼らを適切に支援するための心構えと方法を指南している。

 著者の宮口幸治氏は立命館大学産業社会学部の教授だ。児童精神科医として精神科病院や医療少年院、女子少年院などに勤務した後、2016年から現職。『ケーキの切れない非行少年たち』のほか、『不器用な子どもがしあわせになる育て方』(かんき出版)、『医者が考案したコグトレ・パズル』(SBクリエイティブ)などの著書がある。

「先の見通し」の弱さが
人を頑張れなくする

 宮口氏が指摘する「頑張れない」理由の中で、特に興味深いのが「見通しの弱さ」の問題だ。

 私たちが「頑張る」ためには、「○○になるためには、こうやったらこうなるから、そこまで頑張ってみよう」といった見通しを持つことが重要だという。ところが、こうした見通しができない人々がいる。先のことを想像するのが苦手なのだ。だから「頑張れない」。

 この見通しは、何ステップかに分けられる。例えば、子どもが漢字を覚える宿題に取り組む際の見通しは、以下のようになる。

・漢字を覚える
・褒められる(1ステップ)
・やる気が出る(2ステップ)
・テストでいい点が取れる(3ステップ)
・いい学校に行ける(4ステップ)
・いい仕事に就ける(5ステップ)

 この5ステップをどこまで想像、認識できるかが、頑張れるか頑張れないかに関わってくるというのだ。

 このときに、1ステップ、すなわち「褒められる」までしか想像できないとしたらどうだろう。その子どもは、単純に褒められるために頑張って漢字を覚える。だから、もし褒められなかったとしたら、頑張ることをやめ、漢字を覚えなくなる。

 しかし、その先の、例えば4ステップまで想像できていれば、たとえ1ステップで褒められなくても頑張れる。頭の中で「褒められなかったけれども、頑張って覚えればいい学校に行けるかもしれない」、あるいは裏返して「頑張らなければ、いい学校に行けない」と考えられるからだ。

 見通しの弱さは、犯罪につながることもある。すなわち、

・お金が必要
・目の前の人から奪い取る(1ステップ)
・警察に捕まる(2ステップ)
・借金など他の方法を考える(3ステップ)

 という中で、3ステップか、少なくとも2ステップまで認識できれば、1ステップ目を回避できる。だが、先を見通す力が弱く、1ステップまでしか想像できず、短絡的に犯罪に走る者が後を絶たない。