本書では、先までの見通しができない理由として、「認知機能の弱さ」を挙げている。

 しかし、たとえ認知機能に問題がなくても、私たちはしばしば「見通しのきかない」状況に遭遇するのではないか。現代は変化が激しく、先行きが不透明な時代とよくいわれる。とりわけ現在のコロナ禍では、1カ月先を見通すことすらも難しくなっている。この状況が続けば、今後さらに「頑張れない」人が増えてくる可能性もある。

 繁華街で若者が自粛をせずに路上飲みをするのも、先を見通せない不安を反映したものなのかもしれない。それでも、路上飲みを1ステップとした場合の2ステップである「感染拡大の恐れがある」まで想像できれば、「頑張れる」はずなのだが。

「もっとできるはずだ」
という励ましはNG

 本書で宮口氏は、支援の対象となる「頑張れない人たち」を、主に自身が関わってきた非行少年や知的障害児などと想定している。だが、程度の差はあれど、読者の皆さんの職場にも「どうしても頑張れない人」「やる気を出してくれない人」がいるのではないだろうか。そういった人たちに、頑張ってもらう、やる気を出してもらうための注意点を、本書からいくつか紹介しよう。

 悪気がなく、ついかけてしまう言葉の一つに「もっとできるはずだ」がある。ところが、普段あまり頑張らない人が少し頑張ったときなどにこの言葉をかけると、相手はたちまちやる気を失う。せっかく頑張ってみようと思い始めたのに、「もっとできるはず」と言われると、どこまで頑張れば認めてもらえるのか終着点が見えず、不安になるからだ。これは、先に述べた「先が見通せない」ことにも通じる。

「もっとできるはずだ」には、「期待しているぞ」というメッセージが込められていることだろう。五輪選手のように期待を糧にできるメンタルの強さがあればいい。だが、「頑張れない人」への過度な期待は、せっかく芽生えたやる気を奪う働きしかしない。

「どうして君はいつもそうなんだ」もNGだ。同じミスを繰り返したときなどに、イラついて言ってしまうかもしれないが、これは行動ではなく性格を責められているように受け取られる。そうすると、他の行動についても自信を失い、頑張れなくなってしまう。部下の「人」と「行動」を分けて考えるのは、リーダーシップの基本の一つといえる。

 一方で、ちょっとした気遣いが、相手のやる気を引き出すこともある。宮口氏は、あるNPOで、子どもを虐待してしまった親とその子どもを支援したときのエピソードを紹介している。

 そのNPOでは、その親子が来たときに、毎回ではないが大切な節目の日などには、親や子どもの好みに合った「ちょっといいお菓子」を用意する。たかがお菓子と思うなかれ、これが親の心に響くのだという。普段、虐待した親として周囲から責められることが多いだけに、「大切な一人として尊重された」と感じるとのことだ。

「頑張れない人たち」は、自信や自尊心を失っているケースが多いのだろう。そこに「ちゃんとあなたを認めていますよ」というシグナルを送れば、やる気を起こさせる大きな力になる。そんなコツやヒントを、ぜひ本書から読みとってほしい。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

情報工場
頑張れない部下のやる気の芽を摘む上司の「NG言動」とは
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