8月15日のタリバンのカブール制圧後、欧米のメディアはカブールで英語を話せる女性をインタビューし、「タリバンによる女性差別が復活する。将来が不安」などという反応を報道していた。

 だが米軍の爆撃、侵攻で始まった20年間の戦争の死者は敵、味方双方で17万人余り、民間人の死者は4万7000人余りとされ、夫、子ども、親、兄弟、姉妹などを失ったアフガニスタンの女性は多い。戦争中に国外に逃れた難民は260万人。国内避難者は400万人以上といわれる。

 女性が占領軍、政府軍に恨みを抱くのは避けがたく、長い戦争がタリバンの勝利で終わったことを祝う女性の方がはるかに多いのではないかと考えられる。

対米協力者への報復、迫害
フランスでは対独協力者狩りが発生

 この戦争で死んだアフガン人は14万人以上だから、タリバン政権が対外関係の好転と国内の安定を目指し、占領軍への協力者の恩赦を唱えても恨みを晴らしたいアフガン人が私的に対米協力者に報復、迫害をすることを完全に防げるとは考え難い。

 第2次世界大戦ではドイツ軍が敗退した後のフランスで対独協力者狩りが起きた。

 1940年6月にフランスを降伏させたドイツ軍は約4年間、フランス国土の約60%に当たる北部と大西洋岸地域を占領、南部の40%は右翼の親独派ヴィシー政権に統治させた。

 これに対して一部のフランス人が「レジスタンス」(抵抗活動)を行った一方で、ドイツへの協力者が大勢を占めた。

 1944年8月にパリが解放され、ドイツ軍が一掃されると、民衆は「コラボ」と称された対独協力者の摘発に興奮し、ドイツ将兵と親密だった女性を捕らえて丸刈りにし、市中を引き回した後、一部は処刑することが続発した。私刑の対象となった女性は数千人といわれている。私刑で殺された男女は推定約9000人、公式の裁判でも1560人の政治家、官僚、軍人、警察官などが死刑に処された。

 タリバンが恩赦を宣言しても、私的報復がアフガニスタンでも起こる可能性はあるから米軍は協力者の避難を助けるため、予定の8月末より撤退の延期をタリバンに打診している。だがいずれ撤退することは確実だ。

タリバン政権のカギを握る中国
イスラム過激派、波及を防ぐ思惑

 日本の刑法でも外国と通謀して日本に対し武力を行使させたものはすべて死刑と定め、武力行使が起きた後に、それに加担した者は、死刑、無期、2年以上の懲役としている。

 米国が敗退した後のこの地域の安定をどう確保するかも大きな問題だ。とりわけ注目されているのが、中国だ。

 中国政府は、新疆ウイグル自治区でテロ活動をする「東トルキスタンイスラム運動」などのイスラム過激派が、タリバンの勝利に勢いづき提携することを防ごうとしている。タリバン政権の承認や財政支援と引き換えに、新疆ウイグルの安定、治安維持への協力を求めている。