最後にもう一度
お台場大江戸温泉へ足を運んでみる

 では、お台場のエンターテインメントを担ってきたお台場大江戸温泉は閉館直前、どのような姿で私たちを歓待してくれていたのだろうか?それを自分の目で確かめるべく、私はゆりかもめに揺られて現地を訪れた。

 外観は変わらずも、周辺の設備が撤去されはじめているのか、若干の寂寥感を感じさせる。いささかうがった見方かもしれないが、雲で陰った青空にはどことなく哀愁も漂っていた。

 普段通りのテンションで入場すると、18年の重みを感じさせるメッセージボードが私を出迎えてくれた。「いい湯でした」「疲れを癒してくれてありがとう」「魂」と、さまざまな人々がみな、お台場大江戸温泉という施設への愛情を思い思いに伝えている、その慈愛に胸を打たれた。

お台場大江戸温泉のメッセージボード18年の重みを感じさせる、利用客の寄せ書きがびっしり並んだメッセージボード 写真提供:大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ

 思えば、お台場大江戸温泉にはいつも「入浴する」ではなく「遊びに行く」という気分で通っていた。決して数こそ多くないものの、友人と通った一時や終電を逃し独りでフラフラと館内を回遊したあの夜が脳裏に浮かび、私も簡単なメッセージを掲示板の片隅に残す。

 いつも選んでいた、歌舞伎の隈取がデザインされた「3番の浴衣」と赤い帯を手に取り、更衣室から江戸町エリアに向かう。平日にもかかわらず、多くの人が気ままに縁日や軽食を楽しんでいた。マスクを着けて、アルコールスプレーで手を濡らして。19年までの日常からかけ離れて久しい今ではあるものの、新しい生活様式を人々がようやく自分のモノにしつつあるような、ちょっとした希望を感じる風景だった。