いつ建てられたのかが重要

 日本の建物は世界的に見ても、耐震性が非常に高い。それは、大地震の度に建築基準法などの法律に反映して、建物の強度を高めてきた歴史があるからだ。

 過去の地震の結果から、建てられた時期によって倒壊率が異なることが分かっている。最も大きな差が出るのが、1981年の建築基準法の改正の前後での差だ。

 建物の半壊や全壊の比率は大きく異なり、以前のものを「旧耐震」、改正後の基準で建った建物を「新耐震」と業界では呼ぶ。ゆえに、不動産を運用する大手ファンドでは旧耐震は購入しない方針が大半を占める。震災に見舞われた際に、被害が大きいので、そのリスクを負いたくないのが本音だからだ。

 たとえ新耐震の物件であっても、被害想定を事前に行ってから購入するのがファンドの鉄則でもある。PML値という指標では、475年に1回の大地震があった際に、どの程度お金をかければ元通りになるかを%で算出している。100億円の物件がPML値8%ならば、大地震が起こっても8億円かければ元に戻せるという試算になる。プロはここまでやっているので、これに準じた方が安心だろう。

 ところで、先日の静岡県熱海市の土石流災害では、死者と行方不明者合計で28人を数える。2014年8月の広島豪雨災害では、死者と行方不明者合計で77人に上った。こうした場所をハザードマップで調べると、土石流のリスクが明らかだ。上流部で盛り土を造成したという人災の側面もあるだろうが、起きてしまったことを元に戻すことはできない。

 これらの被災地を映像で見る限り、どうしても、災害リスクがあるところに居住しているように見えてしまう。こうした土地は、そのリスクゆえに不動産価格が安くなりがちだ。だからこそ、住む人が後を絶たない。日本では居住地の自由はある程度制限されている。都市計画で建物が建たない場所があるし、へき地に住んだらインフラ整備を期待することはできない。しかし、人口増加を続ける中で、災害リスクがある土地を開発し、人は移転し続けていた。それを止めることは法律上できなかった。

 しかし、日本の人口はすでに減少し始めている。そんな日本において居住地を制限する方法が、もう一つありそうだ。それは、不動産ローンによる制限である。上記の旧耐震の物件には住宅ローンを貸さない金融機関も多い。建物が長く住める状態にならない可能性があるからだ。過去の建物リスクを金利にはね返るようにすると、災害リスクがある場所には住みにくくなる。そんな方法を考えてもいい時代になったと思う。