政府が学校再開の判断を
各自治体に委ねる理由

 私は過去、日本有数の大企業のトップの意思決定の場面に立ち会うという経験をしてきました。その経験でわかったことを申し上げると、組織の上が下から見ておかしな判断をしてるように見えるときや、判断が遅く思えるときには、その大半のケースは実はトップが口には出せない何らかの意思決定を下している場合だということです。

 今回のケースで、なぜ首相や厚生労働大臣、文部科学大臣が国として学校再開の一時停止を要請しないのか?分科会の尾身会長があれだけ危険を表明しているにもかかわらず、なぜ各自治体に判断を任せているのか?

 それはおそらく、「2学期は9月1日に再開させて構わない」という決定をすでに下しているからだと思われます。批判が出るので口には出さない。けれどもそう決めている。あくまで私の経験に沿った推測ではあるのですが、そうとしか思えないのです。

 実はデルタ株による第5波で、政府にとって打てる対策はふたつしかなくなりました。強硬なロックダウンに踏み切るか、それとも現状のままを維持するかです。前者は経済が犠牲になるので、もし踏み切ってしまうとコロナからは逃れられても日本は別の形で危機を迎えるかもしれません。

 一方で現状維持の場合には、時間がたてば状況は少しずつではありますが改善はしていきます。その理由はワクチン接種率の向上です。ただ残念なことに、政府が期待していたよりも、足元ではワクチンの入手は遅れています。

 現時点で厚生労働省が発表している供給見通しでは、ワクチンは2週間で1万箱のペースです。これは1カ月に換算すると1200万人が2回接種できるペースです。

 今、国内で2回接種が完了した人の数は約5000万人。そして第5波の重症患者の大半が接種が済んでいない人だという事実があります。約6000万~7000万人の未接種者の間で起きているのがこの第5波である以上、その層にワクチン接種が完了しなければ収束しません。

 そしてワクチン入手のペースから、そのゴールまでにはまだ4~5カ月かかりそうなのです。

 つまり、論理的には2学期の開始を数週間遅らせた場合でも、遅らせなくても、どちらの場合でも新型コロナの収束時期は大きくは変わらない。打つ手はなく、時間が進んで、ワクチン接種が進むことをひたすら待つということが、今、わたしたちがしている我慢ということになるわけです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)