今や水害はとても身近な災害である。本書はその仕組みと対策を知ることのできる、良い教本となるだろう。(矢羽野晶子)

本書の要点

(1)ここ数年、豪雨による水土砂災害が続いている。水害は川が引き起こすのではなく、「流域」という地形や生態系が引き起こす現象である。
(2)流域は雨水を集めて地表や地中に移動させ、川の水流に合流して海へ注ぐ働きをする。
(3)日本の治水対策は河川や下水道の整備が中心であった。しかし豪雨時代の今、山地や田畑、町などを含めた流域全体で行う「流域治水」をしなければ対応できなくなっている。
(4)鶴見川流域では1980年より流域の自治体が連携して流域治水を行っており、明らかな効果が出ている。

要約本文

【必読ポイント!】
◆大規模豪雨と「流域思考」
◇「流域」が水土砂災害を引き起こす

 ここ数年、豪雨災害が続いている。小さな川の氾濫だけではなく、鬼怒川、球磨川、最上川など大きな一級河川が氾濫し、被害が広がっている。この現象は一過性ではなく、地球規模の気候変動により今後さらに厳しくなっていくだろう。

 水土砂災害が急増した第一の理由は強い雨が増えていることだ。ここ100年の深刻な地球温暖化が引き起こしているという意見が有力である。私たちはすでに、温暖化豪雨の時代の入り口に立っているのである。

 しかしこの緊急事態ともいえる状況に国も社会も適切に対応できずにいた。まず、地図が問題である。

 豪雨が引き起こす水土砂災害は、「流域」という地形や生態系が引き起こす現象だ。流域とは、雨の水を河川・水系の流れに変換する大地の地形のことである。流域の構造を知ることで、水土砂災害に備える考え方や行動ができる。しかし、私たちが利用する地図に流域は反映されていない。