書店で盗撮犯に遭遇

 以前、こんなことがありました。

 ある地方都市で開かれた講演に行く途中の出来事です。少し、時間の余裕があったので、駅ビルの書店に立ち寄ると、近くにいたサラリーマン風の男性の様子がどうもおかしい。さりげなくその男性を観察すると、若い女性のスカートの中を隠し撮りしていたのです。

 男性を警察に突き出してやろうかと思ったのですが、そんなことをしては講演に間に合わなくなります。元刑事だけに、事件の当事者になればどれくらい時間がかかるかは承知しています。

 女性本人に注意を促す行為は、知らないおじさんが声をかけてきたと勘違いされ、こちらが変質者扱いされかねません。店内に保安員や男性店員はいないかと探すも見当たらず、かといって見過ごせば、後で自分を責めてしまうでしょう。

 少し逡巡した後、私は男性に近寄り、相手にしか聞こえない程度の音量で、強めの口調で耳元でささやきました。

「ふざけたことをするんじゃない」

 男性はちらりとこちらを見た途端、脱兎のごとく逃げ去りました。

 これだけで、男性が改心して立ち直ったとは考えられませんが、その場でできうる最善の方法を実行することで、自分自身の心に折り合いをつけたのです。本当なら盗撮犯を交番所まで連行するべきだったでしょうが、時間がない中、これがベターなやり方だったと思っています。