鷲野さんの遺体は小屋の壁にもたれ掛かり、両脚を前に投げ出して座った状態で発見された。背中4カ所に刺し傷、首には絞められた痕があったという。警視庁は向島署に捜査本部を設置。司法解剖して死因を特定し、殺人容疑でも立件する方針だ。

 報道協定のうわさが流れたのは、鷲野さんが行方不明になってまだ2日後の逮捕前というタイミングにもかかわらず、新聞やテレビ、通信社が任意聴取と速報したというのが理由のようだ。警察は当初から夫婦をマーク、メディアもその情報を得て「握っていた」という推測らしい。

 結論から言えば、そうした事実はあり得ない。筆者の後輩であるデスクも、笑いながら全面的に否定していた。

 そもそも協定は「報道されることによって被害者の生命に危険が及ぶおそれのあるものについて(中略)、報道を自制する協定を結ぶ」と定義。身代金目的誘拐やハイジャックなどのケースに限定される。

 警察が事件を覚知し、記者クラブ加盟各社に協定締結を要請。これを受けて検討するのだが、もちろん現場キャップレベルで即断即決できるわけではない。全国紙であれば本社社会部長を経て、編集局長の決済で「当社は容認」となる。

 記者クラブ加盟全社の総意で協定が発効するわけだが、最近では2006年1月に仙台市で発生した「新生児誘拐事件」、同6月に東京・渋谷で発生した「女子大生誘拐事件」ぐらいだ。どんな事件でも簡単に――とはいかない高いハードルがあるのだ。

微妙なヒントで
事件を察知

 先程の「握っていた」だが、ある意味で「正解」、ある意味では「不正解」だ。今回のケースは前述のデスクに詳しい経緯は聞けていないが、よくある例を紹介したい。警視庁担当記者は事件がなくても、いざというとき情報を耳打ちしてくれるネタ元を作るため「夜討ち朝駆け」に明け暮れる。

 警察庁キャリアは都心の官舎だが、ノンキャリの捜査幹部や捜査員の多くは郊外や都外に住んでいる。そうした中で「今日は夜回り、やめといた方がいいぞ」などと耳打ちしてくれるような相手も作っておく。