「断らない救急」の病院が
コロナ下でも「断らない」姿勢を貫ける理由

 まずは、感染妊婦の受け入れについて。

 神戸市立医療センター中央市民病院救命救急センター長の有吉孝一医師は言う。同院は、「断らない救急医療」の理念を掲げ、医療機関の救急医療体制に関する厚生労働省の調査で、2020年まで7年連続で全国1位の評価を得た。

「妊婦のコロナ中等症以上、またはコロナ感染が判明している妊婦の分娩は当院に入院することが多いです。この3日間で入院した10人の新型コロナ患者のうち2人が妊婦でした。さらに現在、市内に15人感染した妊婦が待機中です。新型コロナ専用病棟が満床になっても、妊婦は現在閉鎖しているEICU(救急集中治療室)で引き受ける取り決めです。COVIDチーム医師(内科を中心に5~7人で編成)と産婦人科医と救急病棟のナースがみます」

 千葉県のケースでは、中等症相当であっても「一般のコロナ患者」として扱われ、早産の兆候が見られた段階でようやく「コロナに感染した妊婦」としての受け入れ先探しが始まったが、神戸市立医療センター中央市民病院ではそうした線引きはせず、適応があれば即入院となるという。医療崩壊せずに、患者を受け入れ続けるためには、それ相応の準備も必要だろう。負担が増加するスタッフから反対意見などは出なかったのだろうか。

「副院長兼看護部長から『妊婦は断れないのでEICUを使わせてください』と依頼され、了解し、コロナ対策会議で報告しました。反対意見はなく会議は1分で終了です。妊婦は当院が主に受け入れるということは、地域や院内での共通認識です」(有吉医師)

 鳥取県立中央病院救命救急センターおよび但馬救命救急センターも、「応需率100%」に揺るぎはない。鳥取県立中央病院救命救急センターのセンター長と但馬救命救急センター顧問を兼任する小林誠人医師は以下のように断言する。

「但馬、鳥取東部の両地域ではおのおのの病院の役割を平時から決め、対応しています。今回の件(千葉県のケース)が起きて改めて確認しましたが、小児、妊婦の病床は確保されています。また幸いにも今のところ、平時の救急受入病床もコロナで逼迫(ひっぱく)させることはしていません。千葉県のケースは感染爆発のせいではなく、地域救急医療体制におけるシステムの問題かもしれません。平時からの問題が明るみに出ただけなのではないでしょうか」

 小林医師は「日本一忙しい空飛ぶドクター」として知られている。2010年に、但馬救命救急センターを立ち上げ、鳥取県から京都府北部までの半径80キロをカバーするドクターヘリを導入するなど地域の救急医療対策に取り組み、東京都と同じ広さの面積に、救急医療を提供する病院は1カ所しかない状況にもかかわらず「うちは日本一安心な地域」と住民が胸を張るほどの医療体制を作り上げた。今年4月からは鳥取県でも、日本一安心な地域救急医療体制づくりを始めた。

 地域に患者を受け入れられる病院が1カ所しかない状況では、どれほど病床が逼迫しようとも断ることはできない。それゆえ小林医師は、周辺の病院や救急隊と協力して役割分担を決め、救命救急センターの病床が逼迫することがない体制を作ってきたという。そのため、「新規の患者を受け入れようにも、回復した元重症患者の転院先が決まらず、病床が空かない」などといった問題が起こり得ない状態になっている。