どこからが「いじめ」になるのか、法律上の定義とは?弁護士が中高で特別授業咎められるべきは、いじめを行う者の「人格」ではなく、いじめという「手段」を選択すること――授業では、いじめに法的な視点から対処するための基本的な考え方を学ぶ 写真提供/ストップいじめ!ナビ

個人の尊厳はDVDの価値と同じ?

 いじめ防止法の目的は、子どもの尊厳を守ることにあります。ですから、「なぜ『いじめ』がいけないのか」という問いに対しては、「個人の尊厳を傷つけるから」というのが法的な視点からの回答となります。

「尊厳を守る」と口で言うのは簡単ですが、実行するのはかなり大変です。大人ですら「尊厳」という概念と正面から向き合う機会は少ないかもしれません。ですから、私は、いじめ予防授業を、尊厳を考える一つのきっかけにしたいのです。実は、先の事例に関しても、最も大きな問題は、「どちらも悪い」という考え方が「Aさんの尊厳の軽視につながりかねない」ことにあると考えます。

 確かに、Aさんは友だちの大切なDVDに傷をつけてしまいました。その行為自体には過失が認められる可能性が高いですから、Bさんへの謝罪のみならず弁償なども視野に入れた対応が必要になるかもしれません。しかし、Aさんが毀損(きそん)した価値は「財産権」であり、究極的に金銭による回復が可能です。
 
 他方、Bさんらが毀損した価値は、Aさんの「人格権」であり「尊厳」です。これは本質的には金銭で回復することができません。ですから、法的には人格権の方が財産権より重い価値であると考えられています。

 Aさんの行為とBさんらの行為を同列に「どちらも悪い」と並べてしまうのは、実は「Aさんの人格や尊厳は、DVDと同価値」(正確には、傷がついたことで下がったDVDの価値数百円程度と、Aさんの人格や尊厳についた傷の価値が同じ)と言っているに等しいのです。

 このように、日常のささいな“当たり前”の中に、個人の人格や尊厳という尊い価値が埋もれてしまうことがあります。ですから、生徒のみなさんには、「いじめ」の問題を通して法的な視点を身に付け、埋もれがちな大切な価値を見失わないようになってほしいと思っています。そうした小さな学習の積み重ねが、ひいては「尊厳を守る」という高い目的を達成する一歩になると考えるからです。

 ですから、まずは、「いじめ」は個人の尊厳を傷つけること、「命に関わるようなことをしなければ、いじめではない」という認識を改めること、「いじめ」は相手に自分の感情を伝える「手段の選択」を誤った結果であることなど、基本となる考え方を授業を通じて伝えていきたいと思っています。

「いじめ予防授業」は次の順番で行います。今回は(1)の定義を取り上げました。この4つを中1から高1まで4年かけて学ぶ場合もありますし、中学の3年間で終わらせる場合もあります。

(1)いじめの定義(事例講義)…… いじめ防止対策推進法の定義と目的
(2)いじめの構造(事例グループワーク)…… いじめの四層構造と傍観者の役割
(3)具体的な行動の検討(事例グループワーク)……「中立」な立場とは何か
(4)具体的な行動の再検討(模擬調停演習)…… 中立な第三者の下での主張の調整

 次回は(2)に関して、「いじめ」を目の当たりにしたとき自分に何ができるかについて、生徒のみなさんから出た意見も交えながら考えていきたいと思います。