バックミュージシャン・スタッフから見た野外フェス

 ドラマーのAさん(30代、男性)は、東日本大震災でがれき撤去のボランティアに参加したこともあるくらい、社会問題に対する意識が高い。彼は音楽フェスとコロナ禍をどのように見ているのか。

「本当に難しいところだと思う。『なんとか開催してファンに楽しんでもらいたい』『感染防止対策を成功させて、今後のフェス開催の試金石としたい』という主催者の気持ちもわかるし、開催それ自体が悪として批判を浴びるというのも十分うなずけます。

 僕はフェスには昨年、今年と参加していないけれども、参加してきた知り合いは『(対策は)しっかりしていたよ』なんて話していましたが。

 僕らは現場(ライブ・コンサートなど)がなくなればそのまま収入がなくなるんで、公演が相次いで中止になったコロナ禍は本当に死活問題です。だから現場にはなくなってもらったら困るんですが、それでも状況を見ながら中止になっていった現場の数々には共感しました。主催者も苦渋の決断を強いられてのことだっただろうし、優先すべきは僕の収入より人命だと思うので。

 まあ僕らは出演するか否かを、結局はアーティストさんやその所属事務所、イベント主催者の決定に委ねるだけなので、自分発信で何か意識をもって働きかけをする、という立場ではありません。

 ただ、フェスは、なんというかロマンがあるので、音楽ファンとして純粋に『まん延防止対策も含めて成功してほしい』と思っています。だから最近のフェス炎上は、個人的には残念です」(Aさん)

 有名アーティストのコンサートPA(設備機材で音の調整をする)を務めるBさん(40代、男性)はどうか。

「今年はスタッフとしてフェスに一つ参加しましたが、アーティストさんが感染対策をしっかり気にされる方で、私もそれなりに気にするほうですが、『ここまでやるのか』と逆に感心させられることが多かったです。知り合いの話を聞く感じでもアーティストさんにはそういう方が多いような印象です。やはり発信する立場なので、我々裏方スタッフとは意識のあり方が根本的に違うのかな、と思います。あるいは、著名人だから炎上するような隙を作らないように事務所が最新の注意を払っているか、ですね。

 反対に、裏方スタッフやバックミュージシャンにはちゃらんぽらんな人もいて、地方遠征時の飲みが楽しみで仕方ない人なんかは、コロナ禍でもマネジャーさんに内緒で、毎晩夜の街に繰り出したりしていましたね。同業として『どうなの?』と思いますが、お互いのそういう部分に口出しするような関係でもないので。

 フェスに限らずいろんな現場を経験してきましたが、アーティストさんと主催者さん、この二者の影響力は大きくて、これによって現場の雰囲気や運営のされ方は大幅に変わります。だから炎上したフェスは、『そのどちらかが至らなくて下手を打ったのかな』と見ています」(Bさん)

 今年も、コロナ禍によって相次いで中止になる大型フェス。なんとか開催にこぎつけても今度は炎上となる。この時勢を受けて、現時点(9月3日)で今月中旬に開催予定とされている大型フェス『スーパーソニック』はどうなるのか。その成り行きが注目される。