大多数の大学を動かすために必要なこと

――今後、多くの大学に気候非常事態宣言を広げていくためにはどうすればよいとお考えでしょうか。

 日本の大学には、宣言につながるモチベーションが不足していると感じています。先に紹介したランキングなどの仕組みもありますが、欧米の大学が一斉に宣言したのは、学生の気候ストライキや、教職員たちが大学執行部にオープンレター(公開状)を送るなどのプレッシャーがあったからです。例えば、英国には「エクスティンクション・レベリオン(絶滅への反乱)」という、メンバーの半数が科学者の環境NGOがありますが、こうした団体が大学に対して気候非常事態宣言を求めて座り込みをしたりしています。欧米の大学の周囲には、常に環境問題に対する取り組まざるを得ない動機があるのです。

――日本ではデモやストライキといった運動で体制が変わるイメージがありませんが、政財界のOB・OGが動けば、宣言を出す大学が増える可能性はありますね。

 私の出身校でもありますが、東京大学がいまだに宣言を発していないことは、全体の機運が高まらない大きな要因だと思っています。OBやOGの意見を募って東大の総長に気候非常事態宣言の早期発出を求めるオープンレターを出してみるのは良いですね。また、社会的に影響のある財界人で、環境問題への意識が高い方々は数多くいます。そのような方々が出身大学に働き掛けることも大きな社会的効果があると思います。

 私たちも公立大学法人としては大きな方ですから、他の公立大学に影響を与えられるのではないかと思っています。さらに東京大学や京都大学、早稲田大学や慶應義塾大学などが一斉に宣言してくれたら、非常に大きな影響力を持つでしょう。

――影響力のある組織や人々が方向を示せば、全体の流れが変わるということでしょうか。

 20年10月に、政府が50年のカーボンニュートラルを宣言しましたが、この半年で日本鉄鋼連盟や石油連盟、電気事業連合会など、多くの主要な業界団体が一斉にカーボンニュートラルを宣言しました。政府が決断したことで日本社会が動いたわけです。これは10年前なら考えられない話で、正しい方向に進み始めているのは事実です。

 まずは方向性を示すことで、そこから波紋が広がっていく。実現できるかできないかは分かりませんが、世界はすでに持続可能な社会の実現へとかじを切っています。日本も全力で取り組んでみるしかありません。