西成活裕西成活裕(にしなり・かつひろ)氏。渋滞学者、東京大学先端科学技術研究センター教授。工学博士。車、人、インターネットなどの流れに生じる「渋滞学」やビジネスマンから家庭の主婦の生活にある無駄を改善する「無駄学」を専門とする。著書『渋滞学』(新潮選書)で講談社科学出版賞と日経BP・BizTech図書賞を受賞 Photo by Mayumi Sakai

西成 アリだけではなく、イワシの群れや渡り鳥などを参考にしている自動車メーカーもあります。車を一種の群れとみなし、通信し合いながら最適な動きをすればよいという発想です。生物は偉大です。群れを成す生物は、言葉を交わさずに統制をとっているわけですから、何かもっとシンプルな方法があると思っています。自動運転は、システムが複雑化すると通信時間がかかってダメなんですよ。可能な限りシンプルなほうがいいんです。

酒井 5Gの時代になって、さらにシンプルなプログラムが出来上がったら?

西成 異次元の世界に突入ですね。人間は見て、判断して、行動するまでに0.5秒かかると言われていますが、自動運転でミリ波レーダーとAI技術を活用すると、0.2~0.3秒に短縮できると言われています。5Gになったら、さらに速く通信できるようになるので、より迅速な判断が可能になります。多くの渋滞や事故は、未然に防げるようになるでしょう。

 さらに、2018年に興味深い論文が出ました。自動運転だと、前の車から情報をホッピングして受け取ることができるのですが、対向車線の車からホッピングするというアイデアが書かれていたのです。つまり、対向車線の車から数キロ先の情報を得られるようになるんですね。感動しました。車同士がコミュニケーションすることで、広い情報を一瞬で手に入れられる。技術の進歩によって夢はどんどん膨らんでいきますね。

日本は、始める前に会議で潰す

酒井 実際に渋滞が改善した国はあるのでしょうか。

西成 各国がさまざまなアプローチをしているのですが、究極の渋滞解消法は「休暇分散」と言われていて、実際にドイツやフランスで採用されている方式です。「みんなで同時に休んだら、混むに決まってるでしょ」ということです。わたしも国土交通省に、関西と関東でゴールデンウィークをずらしましょうと提案したことがありました。非難囂々(ごうごう)で、実現はしませんでしたが。

酒井 それこそ物流が止まってしまうとか、ネガティブな反応だったと伺いました。

西成 日本では、「失敗したらどうするんだ」と言われて、私の提案は十中八九潰されていますから(笑)。例えば、オランダは、「やってみてだめだったらそのとき考えよう」というスタンスで、やってから会議するんですよ。日本はやる前に会議で潰すんですよね。この違いは大きい。

酒井 失敗するとしても、やってしまえば議論の材料となるデータが多く手に入りますね。

西成 おっしゃる通り。特に新しい技術に関しては、失敗から学べることのほうが多いですよ。失敗を恐れて動かないことは、死を意味します。