「誹謗中傷依存」が増えているのでは

「エコーチェンバー現象」とは、閉鎖的空間内で特定の人たちとのコミュニケーションを繰り返すことにより、信念や思想が増幅・強化されてしまうこと。

 程度の差はあれど、自分でフォロー相手を決められるSNSや、一度動画を見ると関連動画が次々に表示される動画サイトにどっぷりとつかっている人は、知らず知らずのうちにエコーチェンバーの影響を受けている可能性が高いだろう。

 たとえば、ある人物の悪評が絶えず流れてくる掲示板やタイムラインを見続けていたら、その人物を嫌いにならない方が難しい。悪評を流している側は、嫌う人を増やそうという意図でそれを行っている。その意図にあらがう気持ちがある人でない限り難しい。これが知識の有無や社会的地位による話でもないことは、ツイッター上で作家や士業など、一般的に尊敬される職種の人たちでも簡単にエコーチェンバーに影響されている様子を見ればわかる。

 ネット上での誹謗中傷やデマ情報の拡散などを見て感じるのは、自分の信念が強化されたり、その信念によって誰かを「たたく」ことは人にとって気持ちが良いのだろうということだ。ネット依存、スマホ依存が問題となって久しいが、今や特定の人物やコミュニティーをウオッチしてたたき続ける「バッシング依存」「誹謗中傷依存」といった方が近いようにも思う。加害欲・嗜虐(しぎゃく)欲を満たしてくれる存在への依存だ。

 加えて、現在のネット上では、特定の人物や団体に対して差別的あるいは蔑視的な発信をすると簡単にフォロワー数や好意的な反応を集められてしまう状況がある。まるで誹謗中傷されてもしようがない個人・団体もいるかのように書き立てられることもある。「いじめられる方も悪い」かのような理屈である。

 この状況には厳罰化が進まないとストップがかけられないのか。人間には自分の信念が強化されることで得られる快感もあれば、信念がひっくり返されることを面白いと感じる感情もあるはずだ。現在は前者ばかりに依存する人が多いように感じるが、後者の重要性が改めて言及されるべきだとも思う。

 ツイッター上では最近、記事を引用する投稿をリツイートする際に「まず記事を読んでみませんか?」という表示が行われるようになった。今後は「言及する相手から訴えられる可能性がありますが、投稿を続けますか?」あるいは「たたく相手に依存していませんか?」といった表示も、必要となるかもしれない。