続いて「コオロギ食べくらべキット」である。食用コオロギ3品種(ヨーロッパイエコオロギ、カマドコオロギ、ジャマイカンコオロギ)を、カレー・ピザ・ガーリック3種のパウダーで味付けてして、計九つの味を食べ比べてみようというコンセプトの商品である。こちらはもうコオロギの原形をばっちりとどめており、袋の中に詰められたコオロギたちはさも恐ろしげで、人類への警告を発しているかのようであった。
 
 しかし、乾燥させられたらしいコオロギたちはだいぶサイズが小さくなっているのか、最も小さいヨーロッパイエコオロギはダンゴムシ程度で、あまり怖くない。一方、最も大きいジャマイカンコオロギは小指の爪ほどの大きさで、こうなると昆虫感がだいぶ強く、怖い。
 

「コオロギ食べくらべキット」。食用コオロギ3品種(ヨーロッパイエコオロギ、カマドコオロギ、ジャマイカンコオロギ)入り「コオロギ食べくらべキット」。食用コオロギ3品種

 恐怖は、袋に入ったコオロギたちを皿にあけた時が最高潮に達し、背筋を悪寒が駆け抜けた。めいは「うわっ…」と言いつつ「触っていい?」と興味津々で、娘もめいに倣って指でツンツン転がした。
 
 しかし、振りかけたパウダーによって姿がやや見えなくなったコオロギは、恐ろしさを半減させた。食べてみると、エビに似た風味は発見できなかったが、どれもおいしく食べられた。めいは何匹か食べ、「コオロギを食べてると思うと…」と脱落したが、娘は無言でムシャムシャやっていた。
 
 皿の上にはパウダーまみれの胴体からつぶらな瞳をのぞかせたコオロギと、その足や羽の破片などが散らばっていたが、試食を行った時間が空腹極まる夕食前であったためであろうか、あのまがまがしかったはずのコオロギがだんだんうまそうに思えてきて、手が止まらなくなってしまった。

 ただし、最も大きいジャマイカンコオロギは、そのサイズのためか「昆虫を食べている」というおそれの気分を拭いさることはできず、たしかヒマワリの種だと記憶しているが、あれに似た苦みが最後に口の中に残った。慣れればクセになりうる苦みかもしれない。
 
 その後、父(68歳男性)が試食の場に現れ、残ったコオロギせんべいを口にして「うまい」と感嘆していたが、父は犬用おやつを「それは犬用」と指摘されるまでどんどん食べたり、猫用おやつを「猫があんなにうまそうに食べるなんてどんな味がするんだろう」と次々に試食する癖があり、調査サンプルとするには味覚や感覚が平均的ではないかもしれない。
 
 結論として、中年という、感性がほぼ固定されている年代の筆者がものの数十分でコオロギ食に順応したわけであるから、他の多くの人たちが順応する可能性は十二分にありえる。順応性のある若い世代なら、容易に順応するかもしれぬ。しかし、昆虫への拒否感にはかなりの個人差があるため、どうしても受け入れるのが難しい人もまた多かろう。
 
 あとは価格である。無印良品のコオロギせんべいは安いが、今回Amazonで購入したせんべいは4袋で1000円強、食べ比べキットは700円強であった。あのコオロギの味を求めてもう一度…と思って選びたくなる価格ではない。このあたりは、今後コオロギ食の普及が進めばもっとリーズナブルになっていくのであろう。
 
 イデオロギーは時代ごとに刷新されていくから、昆虫食が当たり前として受け入れられる未来は十分ありえるのではないか、と感じた。