橘玲の日々刻々 2012年11月20日

[橘玲の日々刻々]
「自分を中心に世界が回っている」という妄想

 会社に定年があるのは、強制解雇しないと、悠々自適の老後を選んだりしないことを知っているからです。私たちのアイデンティティは、社会的な関係性から生まれます。傍から見れば「権力にしがみつく」醜い姿かもしれませんが、地位を失うことは自分自身を否定されるのと同じなのです。

 しかしそれでも、疑問はまだ残ります。高齢者を尊重すべきだとしても、後進に道を譲る謙虚さも大事です。自分が新党の党首にならず、若い政治家を盛り立ててもいいようなものですが、政治の世界では、元気な老人は主役の座からぜったいに降りようとはしません。

 これは、ひとがみな、「自分を中心に世界が回っている」という妄想にとらわれているからです。どれほど知的なひとでも、「いま、ここに自分がいる」という圧倒的な臨場感を否定することはできません。

 日本の政治が転換期にあるとしても、そのなかで石原新党の果たす役割は些細なもので、過去の有象無象の新党と同じく、10年も経てば誰も覚えてはいないでしょう。しかし、こうした“客観的”な自己評価をひとは絶対に受け入れません。

 私たちが完全に合理的だとすると、自分の存在など世界のなかで(あるいは人類の歴史のなかで)とるに足りない砂粒のようなものですから、生きている「意味」など見出せるわけはありません。スタートレックに出てくるミスター・スポックのような超合理的な人間がいたとしたら、狂人になるか自殺するほかないのです。

 健全な精神には健全な妄想が必要です。ところが困ったことに、この妄想は、年齢や能力の衰えとは無関係に肥大しつづけるのです。

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 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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