国と企業の“温度差”がもたらすもの

 生産年齢人口の穴を埋めるため、社会保障費の破綻を防ぐため、できるだけシニアに長く働いてもらう。そのための環境を整える――。政府はその旗印は明確に立てたが、実行は企業に丸投げした。

 日本全体で見れば元気なシニアに働いてもらい、国を支えてもらうのは極めて正しい。しかし、一企業の視点で見たらどうだろう?以前から進んでいたグローバル化がとどまることはない。インターネットやビッグデータ、AI(人工知能)といったテクノロジーは、日々凄まじい勢いで進化、浸透している。

 これまでの業務をデジタルテクノロジーで代替して、新たな付加価値を出すDX(デジタルトランスフォーメーション。デジタル技術の活用で企業が組織やビジネスモデルを変革して、よりよいサービス、価値提供を生み出すこと)が強く叫ばれているのも、この流れのなかにある。

 しかし、90年代後半から日本企業のほとんどが厳しい戦いを続けている。欧米の多くのグローバル企業が新しいデジタルテクノロジーを巧みに使う一方で、日本企業は付加価値の高いプロダクトやサービスを生み出せずにきた。従来型の「現場のカイゼン」に頼って、既存の技術や製造工程を磨き上げることにだけ力を注ぎすぎたのだ。

 結果、世界のトップを走る企業は「GAFA」(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)と呼ばれるアメリカのネット系企業が長らく定位置にいる。それに続くプレゼンスを発揮しているのは「BATH」(バイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイ)で、すべて中国企業となっており、日本企業は見る影もない。

 また、アメリカの一スタートアップ企業でしかなかった電気自動車メーカー・テスラが、2020年に株式時価総額でトヨタを抜いたことは象徴的だ。18年前に、誰がここまでの変化を予想できただろうか。

 複雑・高度化したビジネス環境のなかで、あらゆる企業は厳しい競争にさらされている。IT企業、製造業だけの話ではない。規模や業種を問わない大きな潮流だ。