一方、米国が英、豪、インド、日本などと連携して、台湾住民の意思に背いて、独立を強いるようなことはありそうもない。

 そんなことが起これば中国との戦争になる。米国などの海軍力は数だけでなく技術的にも圧倒的だから、海上封鎖は可能だが、国連食糧農業機関の統計によれば中国の食料自給率は98%、大豆だけが13%だが増産できる。エネルギー自給率は石炭が豊富だから80%でロシアからも輸入可能だから、封鎖で屈するとは考えにくい。

 上陸侵攻し北京へ向かおうとしても、黄海奥の天津付近からでも北京へは180キロある。中国陸軍は海兵隊を含むと100万人、武装警察隊50万人を擁し、近年の陸軍の装備近代化も著しい。米軍は陸軍48万人、海兵隊18万人だから数で劣るし、仮に首都を制圧しても中国軍は、かつて日本軍に対したと同様、内陸に退って抗戦できるから、上陸侵攻しても勝ち目は乏しい。

 航空攻撃や通常弾道ミサイル攻撃だけで、中国を降伏させることも、ベトナム戦争で北ベトナムが激しい「北爆」に耐え抜いたことを思えば、決め手になりそうにないし、やり過ぎれば核戦争に発展しかねない。 

 万一核戦争になれば中国も約100基のICBMを持っており、共倒れになる。

 これらを考えれば9月10日の米中首脳電話会談で双方が「紛争に発展しないことを確実にする」ことで合意したのは当然だろう。

日本は米戦略の「表と裏」を
冷戦に判断する必要がある

 日本は米国の“あいまいな戦略”の表と裏を冷静に冷静に認識してかかる必要があることは明らかだ。強硬戦略に無条件に追従することは極力避けるべきだ。

 財務省の統計で、昨年の日本の輸出の27.1%は香港を含む中国向け、2位の米国には18.4%だから、仮に米中戦争になって、対中貿易が止まれば経済に致命的打撃だ。

 もし米軍が中国を攻撃すれば、その拠点・策源地となる在日米軍基地や戦略的に重要な地点への通常弾道ミサイル攻撃を受けることはまず確実だ。

 台湾と中国のいわば内縁関係のような現状を維持することは米、中、日、台のすべてにとって経済上有益であるばかりでなく、紛争の回避は安全保障の最良の手段でもある。

 日、米が「台湾は中国の一部」との従来の見解を改めて確認し、中国は「台湾が独立を企図しなければ武力を行使しない」とか「台湾とは従来の関係を保ち友好を推進する」といった宣言をするのはそう難しいことではないはずだ。

 29日に自民党総裁に選ばれ次期首相となる人には日本の安全と経済を守るため、台湾の現状を維持して平和を保つ方向に舵を取ってもらいたい。

(軍事ジャーナリスト 田岡俊次)