お隣・中国にとっても自国の「人口減少」は他人事ではない

 さらに、「人口減少」こそが安全保障上の最大の問題だと主張する理由はもうひとつある。愛国心あふれる方たちが「脅威」として捉えている中国が、実は喉から手が出るほど欲しいのが、「シュリンコノミクスの成功」だからだ。

 今、中国共産党が最も恐れているのは、アメリカでもなければ、ましてや日本などでもない。少子高齢化に伴う急速な人口減少だ。

 中国政府が21年5月に発表した第7回国勢調査結果によると、20年11月1日の人口は約14億1000万人。10年からの10年間の年平均増加率は0.53%だというが、これは「粉飾」だという指摘が多い。

 2007年に一人っ子政策を取り上げた「大国空巣」を出版し、禁書扱いにされた米ウィスコンシン大学研究員の易富賢氏は、中国は18年から人口減少が始まっていて、実際の人口は12億8000万人程度だとみている。なぜ1億3000万人もの「水増し」をしたのかというと、「前代未聞の政治的な激震に直面すると判断した」(日本経済新聞21年8月26日)と分析する。

 というのも、中国における急速な人口減少と高齢化は「習近平体制の崩壊」を招くと言われているからだ。例えば、米共和党のシンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所は「China's Demographic Outlook to 2040 and Its Implications」(中国の2040年までの人口構成の見通しとその含蓄)という報告書の中でこのような厳しい未来を予測している。

「今後65歳以上の爆発的な人口増加を伴う高齢化を経験する。それは深刻な経済的逆風をもたらし、『英雄的な経済成長』の時代の終わりを予感させる」(日本経済新聞21年8月8日)

 そのため中国は慌てて「一人っ子政策」をやめて、今は夫婦1組に子ども3人までを認める方針となった。しかし時すでに遅しで、教育費の異常な高騰、さらに女性の社会進出が進んでいることなどで、出生率はなかなか上がらないのが現実で、少子高齢化が急速に進んでいる。特に深刻なのが、農村部だ。事あるごとに中国共産党への不満が爆発するこのエリアは、日本の限界集落のような閉塞感に包まれているのだ。