まず「変異」ですが、これは卵からわずかに違う形が次々と生まれるエラー発生の仕組みのこと。DNAのコピーエラーが変異の原因といわれています。

 そして「適応」とは、自然選択によって生き残りやすいものが選ばれた結果の蓄積のこと。個体が生き残れるかどうかは偶然ですが、例えば首が長い個体が子供を作りやすかった場合、その傾向が何世代も繰り返されると、実際にどんどん首が伸びるわけです。生き残る傾向が分かれれば、種も分化します。こうしてエラー(変異)と選択(適応)が繰り返されると、だれも設計者はいないのに、生物は美しく合理的な形にたどり着いてしまう、というのが進化論の基本です。自然選択説の進化論が1858年にダーウィンらによって提唱されて以来、証明され続けてきたのがこの仕組みでした。

 デザイナーとしては、生物の進化ほど興味深い自然現象はありません。だって、だれもデザインしていないのに人知を超えた美しいデザインが自然発生しているのですから。

創造は、進化と同じく変異と適応の繰り返しによって生まれる。
(『進化思考』P.54から)

 進化論によって生物進化の構造が提唱されてから160年もたっているのに、創造性の構造は語られていない。つまり創造性の仕組みは構造化されていないのかもしれません。そこで進化論を深掘りして、創造性を体系化してみようという挑戦が「進化思考」です。

 進化思考では、進化の構造がヒトの創造性と相似形だという前提のもと、二つの思考を繰り返します。つまりエラーを起こす思考(変異)と、それを適切に選択する思考(適応)の二つです。いかにクレイジーなエラーに果敢にチャレンジするか。そして、ふと我に返って本質的な理由でアイデアを選択できるか。こうした思考の繰り返しは、実際に発明やデザイン、イノベーションなどのあらゆる創造の現場でも起こっています。

 こうした進化的な構造はあらゆる創造性の中に見つけることができますが、実はこれ、漫才のボケとツッコミと全く同じ構造なんです。まずエラーが起こり(ボケ≒変異)、そこにズバッと指摘が入る(ツッコミ≒適応)。これに傾向が生まれて繰り返される(天丼≒繰り返し)と、だんだん作品になっていくわけです。どちらか一方ではなく繰り返しが大事なので、ツッコミがボケを抑制してはいけないし、ボケはツッコミと掛け合ってこそ面白い。しかもボケとツッコミは1回で終わらないことが肝心なわけです。

 これをイノベーションのプロセスに当てはめれば、エラーを積極的に繰り返すべきだし、本質的な観点で何度もツッコミを入れるのが大切で、一周で成果を期待するのではなく、この往復は繰り返すことに意義があるということになります。