リアルなドキュメント「追跡!AtoZ」。今回は、少し普段とは違った科学研究の最前線。しかし、その成果は、そう遠くない未来の社会に大きな影響を与える可能性を秘めている。

 私たちが取材を始めたのは、もう2年も前の事になる。ちまたにあふれる脳の鍛錬。でも、それは本当に可能なのか。そんな好奇心をくすぐるひとつの研究プロジェクトに密着した。天才の脳の秘密に迫るという、理化学研究所(埼玉県和光市)の取り組みだ。

天才・羽生名人のおそるべき直感力。
私たちは天才に近づけるか?

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実験に協力する将棋界の天才・羽生善治名人

 撮影の日、研究所に颯爽と現れたのは、将棋界の天才・羽生善治名人。羽生の頭脳に注目したのは、田中啓治博士だ。画期的な発想を生み出す「直感力」こそが天才の条件のひとつだと考えたのだ。羽生名人が直感を発揮するとき、一体脳のどこが活動するのだろうか。

 MRIと言われる脳活動を測る機械の中で、詰め将棋などの問題に答える、その瞬間の棋士たちの脳活動を捉えようというのだ。この課題、並大抵ではない。問題が提示されるのはなんと1秒。ところが、羽生名人はすさまじい直感で、難なく正解を連発する。度肝を抜く正答率。

 しかし問題は、その時、脳のどこが活動しているか、だ。

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羽生名人をはじめプロ棋士は、この「大脳基底核の尾状核」という部分が活動していた

 活発な活動を示したのは、大脳基底核の尾状核といわれる場所。これまでは手や足を動かすなど、行動の習慣化に関連する場所だといわれてきた。ところが、今回の実験では、思考に関しても尾状核が関連していることが、初めて示唆されたのだ。興味深いことに、この実験に参加したプロ棋士は、概ね同じように尾状核が活動したが、アマチュアではこの傾向は見られなかった。

  「習慣になるほどに繰り返し訓練したことが、尾状核に記憶されている。そして直感が必要な時に発動する。これは努力の賜物なんです」

と田中さんは語った。

 では、どうすれば天才に近づけるのか? 田中さんは、プロ棋士にヒアリングを行い、その訓練に共通点を見いだした。それは“1日3時間集中して訓練する”ことだという。

 羽生名人にだけしか見られない場所もみつかった。嗅周皮質と網様体の2ヵ所。いずれも、脳全体のネットワークを司る要だ。それこそが、天才の源なのか――。残念ながら、今の脳科学には1人だけの脳活動についてコメントできる精度は無いのが現状だ。

脳画像から
心は読み取れるのか?

 去年の暮れ、世界で初めて脳画像から「心の中の映像」を読み解く実験に日本の研究者が成功したというニュースが駆けめぐった。SFでしかあり得なかった夢と誘惑の入り口に私たちはついに立っている。チームリーダーはATR(京都府精華町)の神谷之康さん。研究の内容はこうだ。