岸田新総裁と高市氏高市氏の政策は、具体的かつ体系的であるのみならず、モジュール化されているとも言えるので、必要な部分を上手に活用しやすいと考えられる(写真は総裁選の討論会でポーズをとる岸田氏と高市氏) Photo:Anadolu Agency /gettyimages

岸田文雄氏が勝利した自民党総裁選は、新自由主義から脱却し、積極財政で国難から日本を救う方向性が明確になった点で画期的だった。岸田新総裁はひ弱なイメージを払拭して指導力を発揮するため、決選投票でタッグを組んだ高市早苗政調会長の政策を上手に丸のみすべきではないか。(室伏政策研究室代表・政策コンサルタント 室伏謙一)

敗れた緊縮財政、新自由主義
PB凍結、先送りが当たり前に

 今回の自民党総裁選は、緊縮財政vs積極財政、新自由主義・グローバリズムvs保守主義、少なくとも、脱・新自由主義の闘いであった。

 前者は河野太郎氏、後者は岸田文雄氏および高市早苗氏である。そして、決戦投票を経て岸田氏が大差で勝利した。つまり、積極財政、脱・新自由主義が勝利したということである。

 大手メディアでは、派閥の力学や世論のイメージで総裁選が語られがちだった。政策論を取り上げたとしても、個別の特徴的な政策を取り出した限定的なものでしかなく、こうしたコンテクストで語られること、説明されることはなかったのではないかと思う。

 しかし、今回の総裁選で一番重要なのは、この点、すなわち、緊縮財政や新自由主義からの転換点となるか、その機会となるかである。そして、新自由主義からの転換を明言し、日本だけが設定している奇妙きてれつなプライマリーバランス(PB)黒字化目標を先送りすることも最初から視野に入れている岸田氏が選出されたことは、これまで当たり前とされてきた緊縮財政や新自由主義からの、少なくとも転換点となりうることは確かだろう。

 今回の総裁選では、緊縮財政、新自由主義の権化のような存在であった河野氏でさえ、高市氏のPB黒字化目標の当面の間の凍結や、岸田氏のPB黒字化目標先送り発言に押されるような形で、その先送りに言及せざるを得ない状況となった。

 加えて自民党外を見れば、総裁選前から積極財政に転じていた国民民主党に加え、立憲民主党までPB黒字化目標の凍結に言及。さらに、消費減税と積極財政の具体的な対象を記載した経済政策まで発表するに至った。

 もちろん、国民民主の場合は積極財政の先陣を切る玉木雄一郎代表に対して、党内には緊縮、増税を主張する勢力もまだ存在しており、実際に党としてそのまま押し切れるのかには疑問符が付くし、立憲民主についても、消費税の減税の時期を新型コロナ収束後とするなど、税の役割や、消費税が間接税ではなく実は事業者を納税者とする第二事業税のような直接税であることを理解していないことなど、問題は見られる。

 しかし重要なのは、自民党総裁選を通じた緊縮財政、新自由主義からの転換という議論が着実にわが国の国政の中心に波及しているということだ。