橘玲の日々刻々 2012年11月27日

作家・橘玲×増原義剛対談
改正貸金業法は失敗だった!
ポピュリズムに毒された政治の敗北

ポピュリズムが生じた背景
―〝金貸しは悪?の社会通念

 少し本質的な話になりますが、今回のような〝ポピュリズム”が生じた背景には、〝金貸しは悪”という、ベニスの商人以来の社会通念があって、そこに乗っかって声を上げる人たちがいたという問題があると思います。本来、人間が完全に合理的であれば、ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンの原則に則って、自分にとって最適なものを選び、あとは自己責任でやればいい話です。

 しかし、特に多重債務問題の場合、現実にはなかなかそう割り切れない側面がある。債務者が一種の中毒症状、つまり、自分の努力では抜けられない状況から借金まみれになってしまうと、その原因は金を貸した側にあるとして、金貸しをドラッグビジネスと同じと見なす偏見がこの業界には付きまとっています。このことについては、どういう認識でおられたのですか。

増原 確かに小委員会では「貸す方も問題だが、借りる方にも問題がある」という議論も出ました。ギャンブル等の依存症が原因で多重債務に陥るような借手の問題は、カウンセリングが必要になる。まさにメンタルな部分からフォローしないと常習性は消えず、根本的な解決が図れません。法テラスがいいのか、消費生活センターがいいのか、あるいは地方自治体の窓口がいいのかは検討の余地がありますが、「これはビジネスライクに」「これはセーフティーネットで」と解決策を入口で仕切る役割を担う窓口が必要でしょう。それがないと処方箋を間違えることになります。

日本人は民度が低いと
世界に公言した「総量規制」

そういう様々な議論を経て、結局「総量規制」という世界に類を見ない極めて特殊な政策に行き着くわけですね。しかし、たとえばイギリスには上限金利はありません。だとしたら総量規制とは、「イギリス人は上限金利すら規制しなくてもちゃんとやっていけるのに、日本人は民度が低く自分で金の管理などできないのだから総量規制を行わなければならない」と日本政府が世界に向けて公言している、極めて自虐的な政策だということになります。

増原 あるいは「国民総バクチ常習犯」とか言っているようなものです。

 そもそも日本には日本独自のコモンローがありました。明治以降になって、利息制限法や借地借家法といった個別具体的な実体法を制定させていったのですが、問題は、戦時下のようなある種異常時につくられた法律が、異常時でなくなってからもそのまま普遍化して残っていることです。本来日本でも、先ほどおっしゃったイギリス的なボンド(債券)の世界はありましたが、それを非常時になくし、そのままになっているのです。再度原点に返るべきです。

 ええ、自虐史観に怒る人は大勢いるのに、こんなヒドい自虐政策に誰も文句を言わないというのはおかしなことですね。先進国のどこも採用していない政策を採用することは、かなりリスクを負うことになりますが、金融庁は、こんなことをやっている国はどこにもないということを知っていたのですか。

増原 それは知っていました。ただ、最初は議員立法でしたから、慣例として行政はその改正にタッチしない。ところが、議論していくうちに、規制法のままでやっていたのではらちが明かないから、自主規制を利かせ、業務改善命令を下せる業法にするしかないと、途中でそちらの方向に舵を切り変えたわけです。ですから彼らも、最初は総量規制が法律として通るとは、そもそも想定していなかったと思います。

 総量規制への副作用を懸念する常識的な議論がどうしてなされなかったのでしょうか。

増原 多重債務者をこれ以上出さない、その理念は確かに間違ってはいない。しかしながら、ポピュリズムに引きずられ、多重債務者がどうして生まれるのかというところまで掘り下げた議論ができなかったことに問題があり、政策を誤ってしまった。

 安易な理想論に引きずられると市場を壊してしまうという典型例ですね。

増原 おっしゃる通りです。ただ、タイミングの問題はありました。あの時は臨時国会での法案提出を目指し、とにかく年内に結論を出そうということで取り組んでいましたから、さらにもう1年熟思、慎重審議をすることが許されない状況でした。

 そのような状況では、ポピュリズムの風が1回吹いてしまうと、もうそれに対して立ち向かうのは難しいということですね。

増原 それはまったく不可能です。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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