福岡堅樹氏はなぜ「文武両道」なのか?少年期に見る頭脳と運動の密接な関係Fukuoka Kenki
1992年、福岡県生まれ。5歳からラグビーを始めた。福岡高校では3年時に花園(全国大会)に出場し、2012年に筑波大学へ。翌年には日本代表初キャップを記録した。卒業後はパナソニック ワイルドナイツにプロ契約で加入。その時から今季をラストシーズンと決めていた。この春、順天堂大学医学部に入学。もうひとつの目標、医師を目指す

脳と運動には密接な関係があると言われる。体を鍛えることは、脳にどのような良い影響を与えるのだろうか。ラグビーW杯元日本代表でこの春医学部への入学を果たした「文武両道」の福岡堅樹氏に、インタビュー第1回に続いて運動と「脳活」の好循環を生み出す生活習慣について聞いた。(マガジンハウス『ターザン』2021年6月10日号特集「運動は、なぜ脳に効くのか?」より転載)

福岡の韋駄天は
かくしてジャパンへ

 それは、天性だった。スピード。福岡県古賀市に生まれた少年は、とにかく俊敏だった。幼少期にこんな逸話がある。愛犬(ラブラドールレトリーバー)と下り坂での競走を繰り返し、やがてその前を走るようになった。つまり、大型犬より快足。

「はい。よく走っていました。たぶん、犬も本気だったと思います。聞いたわけじゃないですけど(笑)。小学校高学年くらいには、前を走れるようになったんじゃないかなあ。犬も年をとっていたというのもあるけど、僕もだんだん速くなった」

 ラグビーを始めたのは5歳。自身もラガーマンであった父に連れられ、地元チームで手ほどきを受ける。カラダが小さく、線も細かったがトライを量産。あっという間に虜になった。そのほかにも水泳やピアノ(小4時に九州・山口のコンクールで最優秀賞)などの習い事をして、中学校では陸上部にも所属。100mで11.7秒を記録した。さらに県下屈指の進学校、福岡高校に入学しラグビー部へ。すでにして多才である。

福岡堅樹氏はなぜ「文武両道」なのか?少年期に見る頭脳と運動の密接な関係最も印象に残るのは19年W杯のスコットランド戦。キックパスからのトライ、オフロードパスなど、継続の成果が凝縮 Photo:AFP(アフロ)

「とにかく効率重視でやるタイプ。目標もあったし、ゲームもしたいし、遊びたい。そうやっていろいろあったから、目先が変わり、飽きずにやってこられたんだと思います。小学校の頃から、ラグビーやピアノ、習い事を5つくらい同時並行でやっていたので。自分なりにこなす方法が、身についたのかもしれません」

 マルチタスク、と言いたいところだが、それとは違う。試しに「空気椅子で勉強を?」と尋ねたが、一笑に付された。スポーツの経験があるとお分かりだと思うが、例えば、ボールをちゃんとキャッチする前に、次のプレーを考えると、あわれ取り損なったりする。ジョグなのに足を挫いちゃったり。

「ひとつのことをやっているとき、ほかのことを考えたりはしないです。例えばピアノを弾いてるときに勉強のことを考えたりとか、そういうのは全然。基本的にしません。同時にいろんなことは、僕にはできないですね。ひとつずつ、その時ごとに集中する。逆に言えば、いろいろあったから集中できたとも言えるかもしれない。ラグビーを見るのも好きですが、ずっと見続けるのは得意じゃないし、苦手な科目は特にないけど、ずっと勉強したりもできないので。ふと集中が切れたときに、別のことに目を向けていく。その切り替えは意識してきました」

 つまり。ほかに目を向けるべきものがあるから、切り替えることができた。そして、切り替えることが前提になれば、その瞬間の集中力はさらに高まっていった。やめる時をあらかじめ決めていたから、そのキャリアの輪郭が、よりくっきりと浮かび上がったように。そう。いろいろあること、あるいは「どっちもやる」は、必ずしも「どっちつかず」とイコールではないのだった。