石炭価格が上昇している背景
中国とオーストラリアの対立

 エネルギーや生鮮食品、さらにはタンカーの船賃まで幅広く物価が上昇する中、石炭価格の上昇が鮮明だ。過去1年間で石炭価格は約3.5倍も上昇して最高値を更新している。さらに足元、石炭価格の上昇の勢いは強まっている。需給は極めてタイトだ。天然ガスなどのエネルギー資源の価格も上昇している。

 石炭価格が上昇している背景として見逃せないのが、世界最大の石炭消費国である中国と、インドネシアと並ぶ石炭輸出大国であるオーストラリアの対立だ。新型コロナウイルスの発生源を巡って中豪関係は悪化した。中国はオーストラリア産石炭の輸入を制限し、インドネシアやロシアからの輸入増加を重視した。

 オーストラリアからの石炭調達が減少することもあり、中国は火力発電などに必要な石炭を確保できなくなっている。その結果、最近の中国では停電が発生し、遼寧省瀋陽市では信号が消えた。電力供給不足は生産活動にも深刻な影響を与える。中国国内の生産量を増やそうにも、追加の投資を行い、炭鉱を開発するには時間がかかる。不動産大手・恒大集団(エバーグランデ)の債務問題に加え、石炭不足による電力需給のひっ迫も中国経済にマイナス要因である。

 同様の事態が世界各国でも発生している。脱炭素への取り組みが進む中、燃焼時の温室効果ガス発生量が相対的に少ない、液化天然ガスを用いた火力発電を重視する国が増えている。その一方で、世界的な気候変動の影響で冷暖房のための電力需要が急速に増えている。加えて、コロナワクチン接種などによる経済の正常化によって、電力需要が急速に伸びている。

 そうした中、各国は石炭火力発電を重視せざるを得なくなっている。4月にドイツでは最新鋭の石炭火力発電所が稼働し始めた。経済運営のために世界各国が石炭を奪い合う状況はしばらく続くだろう。