「脳は成長し切ったらそのまま」
という定説は誤りだった

 長い間、脳の神経細胞は青年期で成長しきったら一生そのまま、飲酒や加齢で一部が死滅したらもう元には戻らないと考えられてきた。ところが90年代に、大人になっても神経細胞は新たに作られることが分かった。脳神経学の世界ではまさに世紀の大発見だ。

認知症の最大リスクは運動不足、鍛えれば老いてなお成長する脳の仕組み机に向かってじっと座っているより、歩いているときに閃いた!というのはアリストテレスの時代からよく聞く話。偶然ではない

 さらに同じ頃、脳内で新たに発見されたのがBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質。ノルアドレナリンやセロトニンが神経細胞同士の情報伝達役とすると、BDNFはもともと持っている神経細胞の成長や学習機能の向上を促す肥料のようなもの。それだけでなく、新たな神経細胞を作る手助けをしていることも今では明らかになっている。

 で、このBDNFが、運動することによってとくに海馬周辺で大量に増えることも分かった。90年代の半ばにはホイールランニングで長く走ったマウスほど海馬でBDNFが増えるという画期的研究があり、2000年以降のヒトによる実験でも運動後に脳のBDNFが増え、学習機能もアップしたという結果が報告されている。

 老いてなお、ぐんぐん歩けば脳は成長するわけだ。

(取材・文/石飛カノ イラストレーション/松原 光 取材協力/橋本健志【立命館大学スポーツ健康科学部スポーツ健康科学科教授】)